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ロードバイクでハァハァ峠を登っていると、後ろから響く「ドゥルドゥル」音。凄い勢いで、まるで坂など存在しないようなスピードで追い抜いていくバイク。ああうらめしい。こちとら自分の足で重い体と自転車と余計なサドルバッグを頂上に持ち上げているのに、あっちはちょっとアクセルひねるだけでなんの力も使わずにゴールへワープなんて、なんたる格差。
同じ“バイク”を名乗る乗り物。山で出会うと少なからず仲間意識が芽生え、すれ違いざまに挨拶したりもしますが、“坂道を登る楽さ”という面では両者の間に埋めがたい溝が存在します。
ヒルクラ中に何度もそんな“うらめし”体験をしていると、ふと「エンジン付きバイクで山を走ると、どんな感じなのだろうか?」という疑問がよぎります。溝を越えるためにはジャンプが必要。ならば一度乗ってみようじゃないか。「ロードバイク乗りがエンジン付きのバイクに乗るとどうなるのか」。結論から言うと、想像通りだった事と、思ってたのと全然違った事がありました。
借りたのは何の変哲もない原チャリ。難しく言えば“原動機付自転車”。チャリじゃん。最高速度は時速30kmに制限されますが、自動車の免許があれば乗れる最も身近なバイクです。
ちなみに私のバイク経験は絶無。10年以上前、沖縄の離島に旅行に行った時に、原チャリを借りて一周してみた程度。乗り方は当時習ったハズですが、とっくに記憶の彼方へと消え去っています。
とりあえずバイクに座り、エンジンをかけ、スタンドを外して……
お、重い!!!
いつも乗ってるロードバイクは、片手でラクラク持ち上げられる軽さ。8~9kgくらいが一般的で、重くても10kgほど。一方、このバイクは約80kg~90kg。片足をつけば倒れないよう支えられますが、メチャクチャ重いので、バイクは常に横になろうと負荷をグイグイかけてきます。自分のバイクじゃないというのもありますが、気を抜くと倒しそうで怖いです。
いつも乗ってるロードバイクは、片手でラクラク持ち上げられる軽さ。8~9kgくらいが一般的で、重くても10kgほど。一方、このバイクは約80kg~90kg。片足をつけば倒れないよう支えられますが、メチャクチャ重いので、バイクは常に横になろうと負荷をグイグイかけてきます。自分のバイクじゃないというのもありますが、気を抜くと倒しそうで怖いです。
そんな鈍重なバイクですが、右手を軽くひねるだけで生命が宿ったかのように元気に走り出します。人間の足で80kgある自転車を前に進めるのは至難の業ですが、原チャリはあっというまに時速30kmへと到達します。
操作に慣れるため、バイクショップのまわりの道をしばしグルグル。少し慣れた頃に幹線道路へ出て、西へと走り始めました。
よく原チャリの体験談として語られるのは「大きな道路を走るのは怖い」、「大型トラックなどが横に来ると怖い」などのエピソード。本当にそんなに怖いのだろうかと、ドキドキしていましたが、長野の街中を、大きな車と一緒にしばらく走った結論は
まったく怖くない。ロードバイク乗ってる時の方が怖い
考えてみれば当たり前ですが、一般的にロードバイクの方が原チャリより遅く、車に抜かれる機会は多くなります。さらに車体が軽いので横風にも弱く……と、ロードの方が弱々しい生き物。
対して原チャリは、車のスピードと同じ世界で走れるシーンが多く、さらに存在感も大きいためか、車が追い抜く時も、それなりの間隔を空けて抜いてくれます。ロードの時のように、ギョッとするほど幅を寄せてくる車も少ない印象です。要するに舐められてないなという感じ。
もう1つ実感した違いは、道路のデコボコに対する安定性。ロードバイクはサスペンションなどなく、路面の凹凸がダイレクトに伝わってくるので、自分の体のバネを使って振動を吸収せねばなりません。また、タイヤも細く、パンクしやすいため、大きな穴は避ける必要があります。
対する原チャリは、サスがしっかりしていてちょっとくらいのデコボコは大した振動も感じないままクリア可能。パンクしないわけではありませんが、ロードのタイヤより神経質になる必要もありません。
そんなこんなで、街中を抜け、長野っぽさが漂う山の中に入る頃には「ああバイク素晴らしい」、「なんて楽なんだ」と、頭の中をバイク賛美の言葉が埋め尽くすようになっていました。
長野から木崎湖への道は、このブログでも何回か紹介したおなじみのコース。車通りも少なく、大きな交差点もほぼ無し。のどかで雄大な景色の中を、風を感じながら快適に進んでいきます。
途中でアップダウンもありますが、バイクなら何の問題も無し。「この坂道、斜度7%くらいかな? 自転車だったらダルいだろうなぁ」などと思いながら、あっという間にクリアです。
ロードバイクに乗って、平地で瞬間的に時速30km出す事は難しくありません。ダウンヒルなら30kmどころか、40km、50km出てしまいます。でも、平地で30kmを1時間継続するのはかなり大変。ヒルクライムともなれば、そんなスピードで登れず、20kmはおろか、時速10kmまで切ってノロノロ運転になるものです。
平地の瞬間的なスピードで比較して「ロードバイクは原チャリ並のスピードが出る」なんて言われますが、アップダウンもある長距離で、常時30km近いスピードを維持できる原チャリについていくのは、普通のローディーにはほぼ不可能でしょう。
それゆえ、長野駅から20kmほどの距離にある、おやきで有名な「いろは堂 長野本店」に、あっという間に到着してしまいました。ロードで来た時は、時折登場する坂道でヒーヒー言いながら、なんとか到着した記憶があるのに……。
美味しいおやきが運ばれてきましたが、さほどお腹がすいていません。座りながら右手をひねってただけだし。夏休みのライド、ロードならボトルの水を何度もがぶ飲みしているだろうに、原チャリに乗ってからここまで、一度も何も飲んでいない事に気づきました。
おやきを食べ終え、ここからは本格的な山道に入ります。あのトンネルを出た瞬間にアルプスが見える絶景で有名な、嶺方峠です。
頂上の標高は約1,100m。長野駅からここまで、少しずつ登り続けているので高低差はそれほど無いハズですが、10%程度になる斜度のゾーンもあり、ヒルクラボスとしてはそれなりの相手です。
頂上の標高は約1,100m。長野駅からここまで、少しずつ登り続けているので高低差はそれほど無いハズですが、10%程度になる斜度のゾーンもあり、ヒルクラボスとしてはそれなりの相手です。
車の姿はさらに無くなり、深い森の中へ。今までより明らかに斜度が上がり、アクセルを限界までひねっても時速30kmに届かない場所も出てきました。しかし、それでも自分の自転車でヨタヨタ山を登るのとは比べ物にならないスピードでガンガン進めます。
よく「原チャリで山道なんて荷が重い」、「ウンウン唸るだけで登れないよ」なんて話も耳にしますが、実際の原チャリはそんなヤワではありません。それにしても、80kgの車体に、私のような重いデブやカメラや荷物を満載。150kgは軽くオーバーしている重量物を、こんなスピードで山の上へと運べるあんんて、なんて凄い乗り物なんでしょう。
もう1つ驚くのは、ガソリンの減らなさ。長野で借りた時は当然ガソリン満タンですが、そこから街と山道をガンガン走っても、メーターが1目も減りません。最近の省エネ自動車とくらべても、燃費の良さは化け物レベルです。長野旅が全部終わってガソリン満タンで返却した時も、スタンドで1,000円札出してお釣りが来た時は衝撃を受けました。
「いやぁースゲェなぁ原チャリ」とか言ってるあいだに、「前来た時は、ここがツラかった」、「ああここで、休憩したんだっけ」なんてポイントも、吹き抜ける風のようなスピードで後方へ流れていきます。そして、眼の前にトンネルが登場。
「え!? もう!? これ最後のトンネルだっけ!?」
なんというあっけなさ。以前は「終わってくれ」「もうたくさんだ」とか言いながらウダウダやっていた山が、クシャミしてるあいだに終わってしまいました
それゆえ、なんというか、感動がありません。いや、「到着したなぁ」とは思いますが、まったく頑張っていないのでご褒美感がゼロ。休日に布団の中でゴロゴロし続けた夕食に焼き肉が出てきたような……。
山を味わい尽くした、もうたくさんだ、もうお腹いっぱいだという気持ちがまったくないまま、ゴールだけくぐってしまったような気分。達成感は……なくはないですが、ロードバイクのヒルクラを100とすると、原チャリヒルクラは15くらい。
曇った嶺方峠を撮影しながら「まさかここまで楽だとは」、「楽である事がここまで感動を削ぐものだとは」という2つの事実に衝撃を受けていました。
(かつてロードバイクでたどり着いた時の写真) 続いて、白馬や青木湖に向けてのロングダウンヒル。路面がきれいで車も少なく、快適なダウンヒルだった記憶がありますが、それは原チャリでも同じ。ロードバイクより遥かに重いバイクでダウンヒルなんて、意図せずに猛烈なスピードが出てしまい、危なくて怖いんじゃないかと思っていましたが、まったく問題がありません。
理由は幾つかあります。1つはタイヤが太く、安定している事。サスペンションもあるので、路面が乱れていても安定して下って行けます。スピードが出過ぎそうな場面でも、リミッターが効いているようで、ブレーキを引かなくても時速30km以下に。体重移動やライン取りは、ロードで慣れているので問題無し。
総合すると、ロードバイクの下りよりずっと気持ちが楽で、安心。もちろん、転んだ時はロードより遥かに重い車重が凶器になるとは思いますが、「ロードの方が事故りそうな乗り物だよな」と思います。それに、薄い生地のウェアではなく、長袖長ズボンを着込んで乗っている安心感も手伝います。
ダウンヒルもあっというまに終わり、木崎湖のバンガローに到着。今回の旅は、荷物が多く持てるので、キャンプ風に過ごしてみようというわけです。
なんかホームページの写真よりボロいんですが
言うな
床にウスバカゲロウの死骸が100個くらい落ちてるんですが
言うな
床に焦げた跡もあるんですが
ぼんさんが焼身自殺した跡です
まかせろ
二階をご覧ください、ベニヤ板1枚です
割れて落ちてくるからへるはうんどさんは一階で寝てください
ふざけんな。一階の床は腐ってんだぞ
借りた寝袋にマクラが無いんだけど
寝袋とはそういうものです
ファッツツ!!!!!!!!!!!!!!
荷物を下ろし、木崎湖で泳いでしばしの休憩。以前は、汗まみれのウェアで、ヘトヘトになって到着したので、泳ぐ元気も削がれていましたが、バイクでは元気満点。体を動かさず、風だけ常時当たっているので、洋服もたいして汗をかいていません。たどり着いた目的地で残っている体力も、ロードバイクと原チャリではずいぶん違います。
泳いだ体が乾いたので、夕暮れの小熊山へと原チャリを走らせます。小熊山への道は激坂と言っていいレベルで、ロードには非常にツライ道ですが、原チャリでは何の問題もなし。またたくまにパラグライダー場へと到着しました。
木崎湖までの所要時間もそうですが、バイクはとにかくロードより速いので、「ちょっとあそこ行ってみようよ」と、思いつきで目的地が増やせます。ロードだったら「行きたいけど、体力も残ってないし、あそこに行ったら戻ってくるまで○時間かかっちゃうよ」「晩ごはんまでに帰ってこれないよ」などと思うところですが、バイクではそこが問題になりません。
でもパラグライダー場にたどり着いた達成感がゼロwww
いや、ドローンや重いカメラを苦もなく運べた事に感謝はしています。なんて素晴らしい乗り物なんだ原チャリ。でも……なんだか、いちばん大切な、本文が無いまま物語が進んでいるような喪失感がつきまといます。
夕飯をたいらげ、温泉施設のゆーぷるで湯船に浮かびながら、ぼんさんやゆっけさんに、原チャリに感じた事を素直に伝えると、2人も大きく頷きます。
達成感がないから、頂上の感動は確かに薄いね
ロードだと、帰りに『もうこんな山なんて登らねぇ』と思うくらい疲れるけど、あれって満足感にとっては重要な事だったんだね
そんな3人の結論を、かつてロード乗り、現在はバイクがメインのすぎさんに伝えると
その通り。よって、1つの峠じゃ薄い満足感を満たすために、バイクだと何個も何個も峠を超える事になる。
という凄い結論が戻ってきました。なるほどすぎる。
ただ、こうも思います。この結論は、我々がローディーだから、そう感じるのだろうと。
このブログで何度も書いていますが、私はもともと写真撮影の足として、自動車で各地を移動していました。しかし、自動車では撮影スポットを見つけても、気軽に停車できず、フラストレーションが蓄積。それを解消するため、ロードバイクへと乗り換えました。
普通の人は、学生時代に原チャリに乗り、そこから自動車へ……というパターンが多いでしょう。バイク乗りの人は、原チャリから、中型、大型へとステップアップ。いずれにせよ、自転車でエッチラオッチラ山を登ろうという酔狂な趣味が、間に挟まる事は稀です。
自動車を運転して、山道を走り、峠に到着した事は何度もあります。山頂からの景色を見て「キレイだなぁ」と感じた事もあります。ただ、車というハコの中に閉じこもったまま到着すると、まるでどこでもドアで到着したように、車の中の空間と、山頂の空間が断絶していて、「本当に山頂に到達したんだ」という感動があまり得られません。
その証拠に、閉鎖空間ではないオープンカーで山を走ると、空間が断絶しないまま山頂に到達したので感動度がアップします。
さらに、体全体をさらすバイクでは感動度が上昇。それを自分の力で動かすロードバイクでは、より感動が高まる……というのが私の持論です。
今回原チャリに乗るまで、私はバイクをもっとロードバイクに近い乗り物だと想像していました。先程の「山頂感動度」で例えるなら、自動車は1、オープンカーは5、原チャリは80、ロードバイクは100……くらいなんじゃないかと。
しかし、実際に乗ってみた感想としては「原チャリは15」くらいが関の山。思っていたよりも、バイクは自動車に近い乗り物だった……というのが、私の感想です。つまり、空間の断絶うんぬんよりも、自分の力で苦労して何かを得るというプリミティブな充足感の方が、感動度に大きく影響するという事です。
自分の足で登山して山頂に到達した感動より、ロープウェイで一気に山頂に到達した感動は薄い、というのと似ています。
もし私がロードバイクに乗ったことがなく、自動車から原チャリに乗り換えたらきっと、「自動車より、バイクの方が感動的だった! 最高!!」となっていたに違いありません。たまたま先にロードに乗って、より強烈な感動を味わっていたので、それと比べると……というだけの話。
だからと言って「バイクよりロードの方が優れている」なんて事は微塵も思いません。要するに「苦労というバイアスがかかって、脳がバグってより感動を演出された」だけの事で、自然との一体感、操縦する人馬一体の楽しさを味わいながら、より遠くへ、速くたどり着ける乗り物として、バイクはロードより確実に優れています。
ロードにはロードの、バイクにはバイクの楽しさがあるという、ありがちな結論。しかし、自分で両方体験してみた事で初めて、ロードだけ乗っていた時にはわからなかったロードの良いところ、ダメなところに気づく、そんな長野旅でした。
ブログ更新が止まってる間、全記事を二周ぐらいしてしまいました。
特に、激坂レポートは自分がそこに行く前の参考に何度も繰り返し読んでイメージトレーニングしています。
これからもマイペースで更新してもらえるとありがたいです。