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文字通り、次元の違う絶景の中を走れる渋峠や乗鞍。できればいつも、そうした景色の中を走りたいと思いますが、東京で暮らしていると、なかなかそうもいきません。
だからといって、奥多摩や飯能ばかりでは飽きてしまうもの。超大物ではなく、気軽に行ける中ボスのような場所はもっとないものか……。そんな動機でこれまで出かけたのが、ヤビツの西にある丹沢方面や、箱根など。
残るエリアと言えば、山梨の富士山方面、日光、そして箱根のもっと先にある伊豆でしょう。

伊豆方面に興味はあります。
ただ、あまりにもいつもの活動範囲と違うので、何処を走ってよいやらサッパリわかりません。そんな時に頼りになるのが……と、いつも頼りにし過ぎて、まったく自分のルート能力が向上しないのが問題なのですが、それはさておき、頼りにしているHAOさんに聞いてみると

とのこと。
伊豆と一口に言っても、伊豆半島は巨大です。馬鹿正直に外周を一周しようとすると、3,000mUPどころでは収まらず、即死レベルの難易度だとか。さらに言えば、半島の中央の山岳地帯も険しいラスボスレベル。また、半島の先端エリアは、鉄道の便もイマイチ。輪行での脱出も困難。「初心者がテキトーにルートひっぱって出かけると大変な目にあう」のが伊豆なのだとか。






御存知の通り、このブログに出てくる目的地やルートには、HAOさんや、へまさん、トミィさんなどの思想が反映されていますが、それらに共通しているのは“車が多い街中や幹線道路を走りたくない”というもの。街中は盗難などが怖いというのもありますが、車が多いと事故の確率も上昇します。静かな場所を、快適に、気楽に走りたいというのが基本テーマであるため、人や車がいない場所を選びがちになるのは自然な流れと言えます。

電車にゆらゆら揺られ、2時間半あまり。西伊豆手前にある「函南(かんなみ)」という駅を目指します。
途中、ホームの向こう側が海という駅もあり、旅気分でテンションアップ。


袖を通したものは2,645mUPしなければならないという伝説のガリビエジャージを激写しつつ、輪行袋を広げます。



HAOさんの言葉通り、駅から南下してしばらく進むと車の数が減っていきます。川沿いのサイクリングロード的なものも活用し、快適に達麿山を目指します。


韮山反射炉付近を通りぬけ、温泉地である修善寺方面へ。ひなびた温泉宿を抜けて西へと進みます。目指すは金冠山と、その隣の達麿山、伽藍山など。このあたりの山の稜線をつなぐ、10kmあまりの道路が、西伊豆スカイラインと呼ばれています。昔は有料道路だったそうですが、今では無料で開放されているそうな。



温泉街を抜けると、一気に田舎めいた景色に。それに伴い、斜度も徐々にアップしていきます。
最初は5%、6%程度。無駄話をしながら登れる快適さでしたが、山深くなってくると8%、9%とキツ目に。気温も高く、蒸し暑かった事も手伝い、体中から汗が吹き出し、アゴからポタポタ落ちていきます。
私のようなデブは、運動すると体内に熱がこもり、汗による体表面の気化熱では、満足に体温が下げられなくなります。そのため、喉は乾いていなくても、熱から逃れるため、体の中から冷却するためにドリンクを飲む事に。ボトルはクーラー代わりなのです。
しかし、外気温が高いとドリンクはすぐにぬるま湯になり、飲んでも満足に体温が下がりません。しかし、飲まずにはいられずグビグビ。結果的に水で体重が重く、胃もタポタポになるという悪循環。水の適度な摂取は必要ですが、最初から体温が上がり過ぎないような工夫や努力が必要なのでしょう。




暑さと水不足でギブアップ。展望台で一旦休憩を入れます。
水を頭にぶっかけ、キャップを洗って冷たい水を浸します。首や腕などにもぶっかけて、強制冷却。すぐにまた暑くなるのはわかっていますが、やらないよりやった方が確実にマシです。
吹きすさぶ風で水気を乾かしながら、どれどれ展望台の見晴らしはと、海の向こうに目をやります。案内板によると、この方向に富士山がどかーんと鎮座していて、それはそれは素晴らしい景色が楽しめるそうですが



どういうわけか、とーるさんは富士山に嫌われているようで、彼がライドに参加していると、雲に隠れてしまったり、天候が悪化したりというジンクスがあります。まあ、富士山は箱根でさんざん見たので、良しとしましょう。本来であれば、このあたりにズドーンと見えるらしいです。




発狂するほどの斜度ではありませんが、900m近くはある金冠山へのヒルクライムは容易ではありません。麓からの距離は20kmほど。都民の森をちょっとキツくしたくらいの難易度でしょうか? 4km、5kmで終わる峠とは異なり、このくらいのスケールになると、落ち着いて、マイペースをキッチリ維持する必要があります。
箱根もそうでしたが、東京から遠く離れたこうした山岳地帯に突入すると、峠や山のスケールが変化します。1つの山が、都民の森を超えるレベルで、それがまるでザコ敵のような感覚で点在。恐ろしい場所だと、そんな山に取り囲まれているような状態になり、行くも地獄、帰るも地獄という自体に陥ります。
勢いだけでどうにもできない、スタミナと時間配分を考えないといけない峠が沢山出てくるので、当然難易度が上がります。「よくわかんないけど、まあ行けるだろ」と突っ込んだら、とんでもなくて、「やべえ」と引き返す事もできず、「じゃあ輪行で逃げよう」としたら電車など無く、あっても終電すげえはやいみたいな展開は、都心から離れれば離れるほど確率がアップするでしょう。


とかなんとか考えていたら、景色がブワッとひらけました。
どうらや金冠山をかすめ、達麿山方面へと曲がり、西伊豆スカイラインに入ったようです。




高い木が少なく、これから進む先の道路を見渡す事ができます。奥多摩や飯能ではなかなか味わえない、この開放感と、天上世界感。HAOさんが「渋峠っぽさが気軽に味わえる」と言っていた意味がよくわかります。
天気がもっと良いと、もっとコントラストがアップし、空も青く、絶景度は増す事でしょう。それでも、「うわー、凄いところに来たなぁー」と、走っていると思わず笑みがこぼれます。







では「渋峠や乗鞍レベルか?」と言われると、残念ながらそこまでではありません。
何が違うのだろう? と写真を撮りながら考えましたが、単純にスペックを比べると、私がいま立っている場所は900m程度。2,500mクラスの渋峠や乗鞍は、圧倒的に標高が高い。それゆえ、西伊豆スカイラインでは、周囲の山が下に見えたり、空が近く感じる……というほどではありません。
また、景色の見え方そのものだけでなく、体に感じる“異世界感”が違います。空気が薄く感じるようなラスボス山は、他の山がひれ伏して見えるほど高いので、「まだ上に登るのか」、「ほんとにこのまま登って大丈夫なのか?」という、ある種の恐怖感を覚えます。高所恐怖症ではなく、なんというか、“人間が来る事をあまり前提としていない世界に、無理に突入している感”がつきまといます。
人間が優位に立てない、ひれ伏した末にほんの少し見せてもらせる景色。この異世界感が、渋峠や乗鞍の景色を、さらに特別なものにしているのだと個人的には思います。そんな心情は、おそらく写真にも少なからず影響を与えるでしょう。

心に余裕があるので、ゆったり構えてアングル調整。


人物が入ると、スケール感がよくわかります。








丘の上の、お寺の廃墟が異界の雰囲気を色濃くしています。











とかなんとか言っていますが、バケモノレベルの峠と比較しなければ、西伊豆スカイライン自体非常に美しい景色が楽しめる道路です。元有料道路だけあり、路面も非常に綺麗。ダウンヒルの快適さも格別でした。プロモビデオでも撮りたくなってきます。








スカイラインを堪能後は、海沿いの道へ出るために駆け下ります。このあたりは林道が入り組んでいてよくわかりませんが、HAOさんが「こっちの方が近道」とか「こっちは行ったことがないけど、あそこと繋がってるハズだから大丈夫」と、臨機応変にルートを組み換えながら進みます。地元でもないのに道を知り尽くしていてある意味恐ろしい人です。



人も車もほとんど通らないルートを選んでいるため、時にはこんな先客も、




海沿いと言えば、美味しいもの。
スカイラインで遊んでいたら、お昼はとっくに過ぎてしまったので、大休憩でカロリーを補給します。今日は無茶苦茶登るようなルートではないので、まったり談笑。











あとは海沿いをオシャレに走りながら、函南まで戻るだけ。
お腹もふくれ、気分も晴れやかです。

坂wじwゃwねwえwかwww


そうでした、江ノ島や三浦半島を走った時に思い知ったのに忘れていました。
海沿いというと、海岸線を想像して平坦な道をイメージしがちですが、海岸をずっと走れるわけではなく、隆起した小山を道路は登ったり降りたり、時に海岸線から迂回しながら進むのが日本の道路なのでした。
つまり、海沿いを走る=キツ目のプチヒルクラを繰り返す、まるで尾根幹のようなものだったのです。



10%オーバーの斜度を持つ小山をクリアし、「思い出の丘」だか「青春の丘」だか名付けられた展望施設で休憩。

ダウンヒルして港町へ。








港を抜けたら、すぐにまたプチヒルクラ



夕日の丘公園だか、潮騒の丘公園だかで休憩→ダウンヒル→プチヒルクラ→恋人の丘だかなんだかで休憩→ダウンヒル→プチヒルクラ→死







案の定、最後の港町を抜けたあたりで前に誰もおらず、夕暮れの中、1人口から私だったものを出したり、引っ込めたりしながらソロライドをするはめに……。
15分くらい亡霊のようにクランクを回し続け、港のはずれのコンビニで手を振る皆と合流というようなありさま。デブはヒルクラ苦手ですが、ペースをつかめないアップダウンの連続にも弱く、また、平地の巡航にも弱いのです。強いものと言えば、冬に氷まみれのコーラを一気飲みできる事だけです。それ以外はありません。


お気軽に絶景の中を走るためにはどこへ行ったらいいのか? 西伊豆検証編。
個人的な結論としては、悪くないけど、凄く良くもない
という、お前行った意味あんのかというファイナルアンサーになりました。
確かに景色は凄い。奥多摩や飯能では味わえないレベルで、箱根や富士山のそれと比較しても負けないレベルです。近くにあれば、頻繁に通いたいなと思わせるものもあります。
ただ問題は遠さです。新幹線を使えばまた別ですが、私の家から函南駅まで、おおよそ2時間半。電車賃はさておき、所要時間的にはかなりかかります。ぶっちゃけ、新宿からあずさに乗ってしまえば、長野の松本まで行く所要時間と大差はありません。
これがもし1時間ちょっとくらいでたどり着けるのであれば、頻繁に行きたいなと思えるのですが、「2時間以上かけて行くなら、それこそ長野でも行っちゃった方がよくね?」という気も少しします。始発に飛び乗り、たっぷり時間をつかって移動するか、お金をたっぷり使って新幹線で移動するか、深夜に出発してトランポで移動するか……。
移動の大変さと、かかるお金、得られる満足度と絶景具合。この3つの要素は、複雑にからみあい、容易に最適解は得られません。遠くに行けばいいというものでも、お金を使わなすぎても、使いすぎても、ひたすら絶景だけを追い求めても、うまく回らず破綻します。
当然ながら、使える時間、懐具合、絶景への渇望、田舎っぽさへのあこがれなど、人によってこれらの重要度も変化します。だからこそ、自分なりの答えを探していく。それこそが、自分のロードバイクのスタイルを見つけるという事なのかもしれません。
あと、夜明けの石廊崎もオーバーナイトの後には感動的なうつくしさでした(かなり補正あり)。