AVAの銃器とほぼ関係の無い時代の漫画だが、最近のAVAではかなり古い銃器が追加されているので、ほっとくとマスケット銃あたりが実装されるかもしれない。
時代……と言っても、「皇国の守護者」は史実を題材とした作品ではなく、完全な空想の世界を舞台にした架空戦記モノだ。ただまあ、日本人が読めばなんとなく日露戦争を思い出すハズ。もっとも、登場する銃器・兵器は第一次世界大戦、いやそれ以前のものもある。
物語の舞台は、皇国と呼ばれる島国の北端にある島。そこに、帝国と呼ばれる超大国が攻め込んでくる。武力の差は歴然。手ひどくやられた皇国軍は、北領を手放す事を決め、本隊を引き上げさせる事にする。
しかし、大軍が船に乗って逃げ出すまでには相応の時間がかかる。それまで迫り来る帝国軍を足止めし、本隊が離脱する時間を稼がなくてはならない。そんな“捨て駒”の貧乏くじを引かされる事になったのは、“軍用虎”とも言える剣牙虎(サーベルタイガー)の千早を従えた将校・新城直衛(しんじょう なおえ)と、その部下たちだった―――。
新城直衛は、面倒くさがりで悪知恵が働き、打算的で傲慢で偽善者だが、とりあえず表面をとりつくろう社交性はあり、相手の考えを読む力と、人間の心の動きを論理的に推察する事ができるが、情に流されて考えを変える事はない……という、恐ろしく軍人に向いた性格の持ち主。
上官が死にまくった戦場で昇進した彼が、頭ひとつで敵軍を翻弄し、絶望する部下達をなだめすかして騙しながら時間を稼ぐという、よく考えるととんでもない作品。序章とも言える内容で、本来ならば後に壮大な物語が続くのだが(原作はさらなる長編小説)、紆余曲折あってこの“撤退戦”だけで漫画版が完結するという「どんだけマニアックな戦記モノだよ」と言う状況になってしまった。
ともあれ、この作品で面白いのは、戦場では“打算的な人間の下につくと長生きできる”事がわかる点だ。ドイツの偉い軍人さんによると、軍人は4つのタイプに分けられるそうだ。
・無能な働き者は処刑するしかない
働き者で勤勉だが無能なので、命令が間違っていても気づかず進み、さらなる間違いを引き起こす。
・無能な怠け者は連絡将校や下級兵士に向いている
自ら考えて動こうとしないが、上官の命令どおりには実行するだろう。
・有能な働き者は参謀に向いている
勤勉であるために自ら考え、また実行しようとする。部下を率いるよりは参謀として司令官を補佐する方が良い。
・有能な怠け者は司令官に向いている
怠け者であるために部下の力を遺憾なく発揮させる。そして、どうすれば自分が楽をできるか、つまり軍隊として勝利できるかを考えられるためだ。
英雄的な行動をしようとして即死するのはゲームでよくある事だが、自らのリスクを最小限に減らして、周囲の仲間の力を活用しつつ、打算的に勝利する方法を考えるというを行動理念(というか姿勢)は、ゲームの成績を良くする事にも繋がるのではないかと思われる。
ゲームはさておきこの漫画、頭脳戦だけでなく、鬼の画力で描かれる戦闘シーンも見所の一つ。“絵が上手い”事と“漫画が上手い事”の違いと、“力のあるレイアウトとは何か?”の見本と言っても過言ではない。皇国の守護者の続編も読みたかったところだが、新作の「シュトヘル」も面白いので結果オーライ。むろん原作小説もおススメだ。
なお、この作品は“軍用名言バーゲンセール”としても楽しめる。敵に囲まれた絶望的な状況下で、部下に「地獄で迷子になるより、イカレタ指揮官と一緒に、鬼どもと合戦した方がマシです」とか言われてみたいものである。