
ロードバイクを買ったばかりの頃は、週末になるたび「あの峠を走ってみたい」「ブログで見たあの坂に挑戦してみたい」とワクワクするもの。けれど、数年が経過すると、自走や輪行1時間程度で行ける場所は走り尽くし、新鮮味が薄れてきます。「ロードを買って世界が広がった」と人は言いますが、物語はそこで終わりではなく、「広がった世界で何をするか」を問われる日が来るのです。


渋峠や乗鞍のような場所であれば「何度も行きたいな」と思いますが、そこらへんの峠は景色もそれなり。ついつい「一度行ったからもういいよ」と言いたくなるもの。きっと行けばそれなりに楽しく、天候や季節の違いで新しい景色が見つかるのかもしれませんが、ウェアに着替えて玄関をあける面倒さに打ち勝てるほど、強い動機にもなりません。
世間では、ロード乗りたての友達を作って案内してあげるとか、タイムを計測して“速くなる”というモチベをプラスするとか、峠の先にあるカフェで昼食を食べる事を習慣にするとか、いろいろな手法で“マンネリの打破”に挑む人もいるようです。でも、友達作れないコミュ障だし、速さに興味ないし、美味しい昼飯は街のお店でも食べられるし……。
話は変わりますが、先日フィギュアが届きました。「メイドインアビス」という、簡単に言うと「はじめてのおつかい:地獄篇」のようなアニメ(AmazonPrimeやNetflixなどで配信中/原作は漫画)に登場する、“ナナチ”というキャラクター。作品を知らない人は人間なのか、ケモノなのか、妖精なのか、よくわからないですが、要するにモフモフしたかわいいキャラクターです。
「メイドインアビス」の「アビス」は、「地底」とか「地の底」を意味します。南の海に浮かぶ小島の真ん中に発見された、直径約1,000mもある巨大な穴。深すぎて中がどうなっているのか、どこまで深いのか、だれもわからない危険な大穴に魅了され、命と引き換えにその謎に迫る人間達の物語。その深淵で主人公達の前に現れ、癒やしをくれるのが“ナナチ”です。
届いたフィギュアのナナチは、たいそう可愛いのですが、困った事が。家の中で撮影しても、背景がフローリングやソファではまったく“冒険感”が出ない。

近所の公園に行っても“人智のおよばない神秘的な世界感”を出すのは難しそう。ならば本当の秘境に行って撮影すればいいのではないか。
ここでロードの経験が活きてきます。なにせ、人のいない峠ばかりを選んで登ってきた自転車人生。「ここどこだよ」みたいな山奥の景色は、飽きるほど見てきました。
近いところでは、奥多摩、相模原、飯能方面。“地底っぽい風景”と言えば、洞窟、トンネル、滝など。奥多摩の神戸岩あたりがいいのでは? と考えていたところ、その手前にある“払沢の滝”(ほっさわのたき)が、冬は凍りついて神秘的になるという情報が。まさにおあつらえ向きではないか!!
近いところでは、奥多摩、相模原、飯能方面。“地底っぽい風景”と言えば、洞窟、トンネル、滝など。奥多摩の神戸岩あたりがいいのでは? と考えていたところ、その手前にある“払沢の滝”(ほっさわのたき)が、冬は凍りついて神秘的になるという情報が。まさにおあつらえ向きではないか!!

(こんな風になるらしい)
払沢の滝の場所は、とうふミルクソフトでお馴染み「ちとせ屋」の脇。奥多摩ヒルクラ世界の“入り口”みたいな場所。さすがに輪行で行って、払沢の滝だけで帰るのはカロリー消費にならないので、家から自走する事にしました。同行者はおなじみ、ゆっこさん、あきあきさん、トミィさん。


準備万端。世界広しと言えど、オルトリーブのサドルバッグに、フィギュアを入れて走るローディーは多くはないハズ。

聞かれもしないのに、スタート前に宣言しておく事で、よけいなヒルクラはしないという予防線を設置していくスタイル。
五日市街道をひたすら西へと進めば奥多摩ですが、ひたすら自動車と信号がウザいので、ひたすら裏道を行くスタイル。いかに速くたどり着くかではなく、いかに信号と自動車を目にしないで到着できるかにこだわるのも、ローディーのスタイルの1つ。



テンションが上がるのは、遠くに富士山がチラ見した時くらい。カロリー消費のためとはいえ、街を走るのは苦痛でしかありません。ウダウダ言いつつも、なんとか武蔵五日市駅に到着。ここから払沢の滝までは、檜原街道を走るだけ……。
しかし、「車のいない田舎道を走りたいゲージ」が振り切れたトミィさんが、突然道をそれてまったく違う方向へ走り出しました。聞けば、最近よく使っているお気に入りコースで、そのコースでも最終的には払沢の滝の手前、檜原村役場までたどり着けるのだとか。
面白いコースなら、走らない手はありません。後ろについて行くと、いきなり眼の前に清流と田園風景が。


武蔵五日市→役場までの道なんて、特に何もないと思っていましたが、1本道をそれるだけでこんな場所が広がっていたとは……。小さな景色を見落としたくないからロードを買った事を思い出しました。ありがとうトミィさん。




汗だくで坂をクリアして、檜原街道に戻ったらまったく進んでいなくて絶望。直後、すぐに檜原街道を離れ、またわけのわからない田舎道を走る……の繰り返し。尾根幹に沿って、脇道を走り倒す「裏尾根幹」を思い出すようなルートです。

ゼーハー言いながら、誰もいない森の中を走っていると、突然視界に真っ白なイタリアンレストランが。突然過ぎて撮影を忘れたのでストリートビューで誤魔化しますが、まるで映画やCMのワンシーンのようなロケーション。奥多摩の多彩さを改めて実感。

(写真撮り忘れたのでストリートビューから拝借。場所はこちら)











ラビリンスルートの果てにたどり着いたのは、小さくて可愛いお店“乙訓おやき店”。なんでも、檜原村はおやきが名産だとか。



自走で疲れた体に、甘いあんこが染み渡ります。まわりの皮の部分もモチモチして美味。隠れた奥多摩グルメです。

檜原村役場にたどり着くだけで、だいぶ“濃い”冒険ができました。いやぁルートって本当に奥が深いもんです。奥多摩で気軽なヒルクラというと時坂峠が有名ですが、こういう気軽な楽しみ方も大いにアリです。
役場からちとせ屋さんに到着。その先で自転車を降りて、ここからは徒歩で払沢の滝を目指します。SPDで良かったと思える瞬間。10分あるかないかの短いトレッキングですが、山登りに慣れていない足には地味にツライです。





暖冬なので“凍っていないのでは?”と心配しましたが、無事に凍りついた滝と対面。


寒い時は滝壺まで凍りつくそうですが、シャーベットのような滝壺も、静と動が混在していて、これはこれで魅力的です。


SPD-SL連中を置き去りに、滝壺近くへと岩場を降りて、ポケットからナナチを取り出し撮影開始。アビスの深界5層付近、「ここは地下水も凍りつくほど寒いんだが、オイラはモコモコだから寒くねぇんだ」とか説明しているようなイメージでパシャリ。




フィギュアもクマ吉もそうですが、人目が多く、素早く撮影を終えたい時は、事前のシミュレートが重要。フィギュアをどんな向きで立たせ、どんなアングルで狙うと、どんな表情に見えるか。家で事前にクルクル回しながら見ておくと、現場で慌てなくて済みます。
ゆっこ@ロードバイク@yuccobicycle
RT 撮影メイキング https://t.co/K9qjfPDKDF
2019/01/27 20:49:03

滝の近くには、アーチ状の木に人工的に水をかけて、ツララのゲートを作ったアート(?)作品も。まわりに人影もありますが、ズームレンズで背景を整理して深い地下世界に見えるアングルを探します。




水の飛沫で凍りついた、ジュンサイのような葉っぱも、ナナチを置くと「アビス世界の謎の植物」に見えない事もありません。




氷の上にも立たせてみましたが、あまりおもしろくないので、わざと水の飛沫の中に頭を突っ込んで撮影。“謎の胞子が充満する世界”のように見えなくもないような……。




氷の上にも立たせてみましたが、あまりおもしろくないので、わざと水の飛沫の中に頭を突っ込んで撮影。“謎の胞子が充満する世界”のように見えなくもないような……。


風景はそれ自体が絵になりますが、人間やぬいぐるみ、フィギュアなど、感情が宿るオブジェクトを配置すると、絵の中に物語が生まれます。
見飽きたハズの風景も“物語の背景”という視点でとらえてみると、新しい魅力に気付くかも……。そんな可能性を感じた“メイドインアビスライド”でした。
