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 もともと写真撮影の移動手段として自転車に乗りはじめ、気付けば山の上で絶景を撮影する事が多くなりました。しかし、イカス景色は自然の中にだけあるわけではなく、街の中にも隠れています。


 とある土曜日の夜、食べすぎた晩ごはんの罪悪感から逃れるために、サドルにまたがり、走り始めました。目的地は特に考えず、「夜でクルマが少ないから、普段走らない幹線道路も楽に進めるかなぁ?」、「多摩川とか夜行ったらどんな感じなんだろう?」などと考えながら、なんとなく方角だけ決めて進みます。

 ただ走るだけというのもつまらないので、α7とレンズ(Voigtlander Nokton 50mm F1.1/Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 )をサドルバッグに投入。夜景撮影なら三脚が欲しいところですが、レンズとカメラに加えて、そんなものまで背負って走ると背骨が折れるというのは、以前の実験で体験済み。

 以前、とーるさんのスカンジウム(下の写真)をお台場で撮影した際に使った、背中のポケットに収納できるくらい小さな三脚も持っていますが、今回は三脚を使うほどマジメに撮影する気も無く……。まあなんとかなるだろと環八を進みます。

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 ナイトライドと言えば、このブログでレポしていませんが、昨年末にスカイツリーの撮影をしました。スカイツリーは、なんとも言えない淡い色合いのイルミネーションが特徴で、電波塔と言うよりも、異世界へのゲートみたいな雰囲気が魅力です。

 突発的な思いつきで何人かで集まって走ったので、三脚も無く、地面や何かの手すりなど、その場にあるいろいろなモノを駆使して誤魔化しつつ撮影。そのまま銀座を抜けて、お台場方面まで走った記憶があります。

 (以下はその時の写真)
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 そんな事を思い出し、「スカイツリーにまた行くのも芸がないしなぁ」などと、多摩川付近まで到着すると……。

 クwソw真っ暗wwww

 当たり前ですが、夜景どころか建造物が何も無い闇が広がっています。

 カメラを取り出す気も起きず、かといって一枚も撮らずに帰るのもバカっぽい。どうしようかなぁ、海とか行ったらなんか光っているかしら……と、また何も考えずにクランクをまわすと、川崎に通じる
橋に到着しました。

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 ようやくナイトライドっぽい写真が撮れて、楽しくなってきましたが、ここから先の目的地がありません。横浜の夜景って手もありますが、流石にちょっと遠すぎです。

 そこでふと思い出したのが、川崎の埋立地にある工場地帯。工場の夜景は、テレビで特集が組まれたり、写真集が出たりと、写真の1つのジャンルとして人気があるのはご存知の通り。川崎の工場地帯も、聖地の1つとされている事は知っていましたが、行ったことはなく……。どんな場所なのか、見に行くだけでも面白そうです。

 ただ、漠然と「川崎の工場地帯」と言っても、どこが夜景スポットとして素敵なのか、まったく予備知識がありません。広大な工場を、あてどもなく走るというのもツラそうなので、スマホを取り出し、ポチポチ検索。

 なんか、このへんにある

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 千鳥町とか、東扇島とかを目指せばいいっぽい

 ちなみに、その2カ所を結ぶ海底トンネルも、カッコイイ感じなんだとか。

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 工場がある島に到着してから、何処に行けばいいのかわかりませんが、まあ、到着してしまえばなんとかなるだろと、再びクランクをグルグル。何度か道を間違えつつも、千鳥町に到着しました。



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 休日の深夜なので当たり前の話ですが、誰もいません。

 工場地帯だけあって道路は巨大ですが、ファミリーカーの姿は無く、歩行者もゼロ。時折、巨大なダンプカーが通るくらい。まるで、人間が機械に支配されるようになったディストピア映画のラストで、AIの親玉がいる巨大工場を爆破するために忍び込んだような、邪な気持ちになってゾワゾワします。

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 道路の両脇には高い壁があるのですが、工場の施設群はその壁よりもっと高くそびえています。照明に照らされたパイプが鈍く光り、それが無数にからみあう異様な景色は、さながら配管の林道

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 右下に愛車を入れてパチリ。

 どこが定番撮影スポットなのかサッパリわからないまま、それでも、塀から突き出た工場群の姿に圧倒され、「へぇー」、「ほぁー」とか言いながら、誰もいない千鳥町を進みます。

 ただ、カッコイイ工場が出て来るたびに、自転車を降りて、塀やらサドルやらを三脚代わりに撮影するのでまるで先に進みません。

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 しばらく進むと、塀が低くなり、燃料や資材などを運搬するためと思われる工場内鉄道の線路が目に入りました。そういえば、このポイントからの写真は、以前どこかで見た事があります。定番スポットというやつに違いありません。
 
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 1枚撮影していると、ふと、誰かの気配が。振り返ると、後ろから三脚を持ったカメラマンがやってきます。

 「自転車で来られたんですか、スゴイですね」

 「いやぁ思いつきでここまで来ちゃったんです」

 などと、他愛のない会話をしているうちに、私はある事にようやく気付きました。

 誰もいないと思ってたけど、三脚かついだカメラ野郎がスゲェいる

 ずっと明るい工場を見ていたので、気が付かなかっただけ。暗さに目が慣れてくると、暗闇のそこかしこに、カメラを持った人がうずくまっています。若い人から、年配の人、カメラ好き女性3人組みの姿まであります。調光レンズとはいえ、アイウェアを装備していたのでよけい見にくかったのでしょうう。

 全員無言で撮影しているので、ハッキリ言って怖いwww

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 ちゃんとした装備で撮影している人達を、ライトビカビカのローディーが邪魔するのも申し訳ないと、数枚撮影して離脱。

 自分なりにカッコイイと感じた工場も追加で何枚か撮影しましたが、時間もだいぶ遅くなったので、そろそろ帰らねばなりません。

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 帰る前に、海底トンネルがあったなと思い出し、千鳥町の外れにあるという、東扇島へのトンネルを探します。

 クルマが通るトンネルはすぐに見つけましたが、写真的にカッコイイという、人道トンネル(人間や自転車が通る用のトンネル)の入り口がわかりません。周囲があまりにも真っ暗で、予備知識ゼロなので、15分ほど周囲をさまよってしまいました。

 やっとの思いで見つけた、人道トンネルの入り口。

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 こwwwわwwすwwぎwwるwww

 時刻は深夜0時。

 暗闇に紛れていたカメラマン達の姿も、ここには無く、あたりは完全に無人。おっかなびっくり中に入ってみましたが、絶妙な寂れっぷりが雰囲気満点。こういうのは大好きですが、怖いことは怖いので、すでに半泣きです。

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 怖さに拍車をかけているのは、誰もいないトンネルの中に響く、

 「自転車は降りて通行してください」

 という無機質なアナウンス。
アニオタにしかわかりませんが、「機動警察パトレイバー the Movie」のクライマックスで、東京湾に設置された海上プラットホーム“方舟”を破壊するため、中央コントロールを占拠し、各フロアをパージしていくアナウンスに雰囲気がソックリです。



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 しかし、せっかく来たのだから、何枚か撮影しないともったいありません。

 我慢してシャッターを切っていると、背後から

 キー....

 という小さな音がかすかに聞こえます。

 最初は、隣を走っているクルマ用トンネルからの音だと思っていたのですが

 徐々にキーという音が大きくなり、おかしいなと振り返った瞬間

 どこかの工場の作業着を着たおっちゃんが、異音のするママチャリで猛スピードで駆け抜けて行きおしっこが漏れました。


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 ロードバイクのナイトライドというと、「尾根幹でトレーニング」とか「皇居で周回」とか、ガチッぽい雰囲気が漂いますが、夜の街の景色を楽しむために走るというのも、なかなかオツなもの。東京タワーとか、スカイツリーとか、定番夜景スポットも良いですが、たまには工場地帯なんかを目指してみるのもいいかもしれません。なにより、誰もいなくて走りやすいのがいいです。

 闇夜に紛れたカメラマンを轢かないよう、注意は必要ですけども。