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 (読了後再生推奨/画質は720/60p、1080/60pがオススメです)


 私が勝手にチョイスした東京近郊の激坂スポット「四天坂」。その中で最も強烈な敵は、奥多摩にある風張林道です。

 距離は4.3km、平均斜度は約12%。一般的に5~6%の斜度で「うわ、坂道だ」と感じ、7~9%で「つらいわー」、10%を超えると「ひいー! キツイー!」と泣き言が漏れ、おしゃべりが困難に。13、14、15%で悶絶、20%を超えると横浜のおじいちゃんが見えてきます。

 風張林道は平均斜度が12%。要するに“スタートしたらずっと泣いている”ような峠です。

 ただ、この斜度という数字。感じ方には個人差があります。私のようなピザデブの実感は前述の通りですが、細くて体重が軽い人は「10%の坂道でも鼻歌まじりだよ」と言うかもしれません。逆にもっと太ってる人は「7~9%の時点で発狂する」かもしれません。

 それはつまり、私がリュックを背負い、そこに5kgや10kgのオモリを入れたら、斜度の感じ方が変わるという意味でもあります。風張林道はかつて脚つき無しで倒した経験がありますが、もし数kgのオモリというハンデを背負っていたら勝てたのかどうか?

 今回は図らずも、その仮説を実証するような戦いの記憶です。

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 舞台は長野県・木崎湖。私の肉体は東京に住んでいますが、中身は木崎湖に存在しています。精神的な実家です。都内を歩いている時に、魂が抜けた顔をしているのはそういうわけです。

 その木崎湖の隣に“小熊山”という小さな山があります。山頂付近にはパラグライダー場があり、見晴らしの良い草原から湖を見下ろせる、絶景スポットとしてローディーにも人気があります。

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 私はロードバイクで一度、この場所まで登った事がありますが、レポートした通り正規のルートと逆側から登ってしまいました。無知を反省しつつ、正規ルートでGWに再チャレンジしてきました。それがまさかあんな事になるとは……。

 東京から木崎湖への移動ルートとして定番なのは新宿駅からスーパーあずさに乗り、松本まで行くというもの。AACRでおなじみのスタイルですが、スーパーあずさは時間がかかり、乗り心地が悪く、狭く、到着した松本という街も、木崎湖からかなり遠い……と、木崎湖メイン目的地の旅では、不便な点が目につきます。

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 そんなわけでオススメなのは、広くて速くて快適な新幹線を使い、東京駅からバビュンと長野にジャンプ。そこから西へと進んで、木崎湖に行こうというルート。

 昨年も実施しましたが、国道406号線という道を使うと、快適に走れつつ、最後にダラダラとした登りがあり、嶺方峠(みねかたとうげ)という場所に到着。そこにトンネルがあり、「トンネルを抜けた先は北アルプスだった」みたいな写真が撮れます。

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 嶺方峠からダウンヒルをすれば、もうそこは白馬やら木崎湖やら、ローディーの天国・長野。人里も少なく、自然を満喫したいローディーにオススメのコースです。

 ただ、前回と同じルートを走ってもつまらない。さらに言えば、木崎湖にもっと簡単に行きたい。

e3e05b84ぶっちゃけ、嶺方峠はもう行かなくていいよね。



-5xqteuTそうね、あのトンネルの絶景を見なくていいなら、わざわざ登る必要はないかも。



 という、ローディーにあるまじき省エネ発想から、今回は「大町街道」という道路を使って西へ進む事にしました。このコースは、「長野駅→嶺方峠→白馬」コースよりも、少し南側を走っており、木崎湖への最短コースとなります。

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 ヒルクラの少ない楽ちんコース。気持ちも軽やかに、新幹線で到着した長野駅で自転車を組み立てます。しかし……

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3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400チャリがクソ重い


e3e05b84うわっ、持ち上がんね! 重いwwwwww


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 今回の旅は、白馬のペンションで宿泊する予定なので、着替えなどがサドルバッグに満杯。さらに新装備のドローン、コントローラー、充電機器なども携帯しているため、自転車が普段より2~3kg重くなっています。坂道が少ないルートにしたのは、正解だったかもしれません。

 長野駅を出て、ひたすら西へ。嶺方峠へのルートと比べると、少し車は多めですが、道幅は広く快適です。時折現れるちょっとした登りにヒーコラ言っていると、青い空の向こうに白い山脈がチラチラと見え隠れ。言わずと知れた北アルプス。その麓にある湖に向かっているので「もうすぐあそこに行けるんだ」というワクワクが止まりません。

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 それにしても流石は長野様。幹線道路から左右に伸びる小さな脇道が、どれもこれもフォトジェニック。日本の原風景のような集落が広がり、自転車の重さも忘れてしまいます。

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 しばらく進むと、GARMINに入れたルートが脇道へススメと指示します。大町街道をそのまま進んでも木崎湖・青木湖方面に行けるようですが、若干遠回りに。脇道を進むと、よりダイレクトに湖へ行けるようです。

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 脇道に曲がるとすぐに、木の鳥居が。急ぐ旅でもないので、自転車を置いて撮影スタート。普通のローディーは自転車9割、記念撮影1割程度の配分かもしれませんが、私の旅は自転車4割、撮影6割。気になるものがあれば、撮影しなければ気が済みません。

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 鳥居の先には道祖神と馬頭観音。道祖神は安曇野のそこかしこで見られますが、旅の安全や、集落に悪いものが入ってこないようにと建てられたもの。馬頭観音も、かつて交通の重要な手段であった馬を供養するものなので、由来の違いはあれ、道祖神と近い場所で見かける事が多いです。周囲に家が無くなっていても、かつては集落などがあったのだなぁと思いながらファインダーを覗くと、少し気持ちも変わってきます。

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 それにしてもこの脇道、キツイです。斜度は10~13%程度だと思いますが、荷物が重いので、14%オーバーのような気がします。痩せるとヒルクラが楽になり、太ると重くなりますが、それを疑似体験しているような気分。「自転車が軽くなるとホントに登りが楽になるのか?」知りたい人は、逆に重いサドルバッグを装備して走ってみると、手っ取り早く体験できるかもしれません。

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 ヒーヒー言いながら、脇道ヒルクラをクリアすると、目の前には北アルプスと湖が。ちょうど木崎湖と青木湖の中間くらいの場所に出たようです。

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 木崎湖でまったりしたいところですが、その前に、今回のメイン目的である小熊山に登らねばなりません。

 美味しい信州のお蕎麦を食べてひと息ついたら、さっそくチャレンジ。

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 スタート地点は、木崎湖と青木湖の真ん中にある、小さな“中綱池”。その脇に、鹿島槍スキー場へと続く山道があり、そのスキー場をさらに越えた先にパラグライダー場があります。


 距離はだいたい10kmほどでしょうか。かなり長めで、平均斜度は7.7%とちょい高め。ただまあ“小熊山”という可愛い名前ですから、さほどツライ事もなく、ゆるゆる登っていれば大丈夫でしょう。

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 吐血

 何が起こったのかわかりません。スキー場に向けて登りはじめた瞬間、クソみたいな斜度の強パンチを喰らいました。斜度は13、14%程度でしょうか。サドルバッグが重いので、まるで16、17%程度の激坂のように感じ、足がまともに回りません。

 意味がわからない事に、この激烈斜度がまったく落ちません。それどころか、GARMINに表示されている数字がモリモリと上がっていき、“サドルバッグが重いから17%に感じる”のではなく、実際の数字も17%に。

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 こうなると、体感斜度は20%にも感じられる生き地獄。そもそもこんな斜度、関東地方では存在したとしても、100mもないような“ギャグ激坂”にあるだけで、“峠”と呼べる長さでは存在しないものです。やべえここ長野じゃん。忘れてた。殺される。

 後で調べてわかることですが、10km行程の前半、スキー場までの約3kmは、平均斜度10%オーバーという“風張林道よりちょい弱め”くらいの魔界レベル。これに荷物の重さをプラスしているのですから、悶絶するに決まっています。

 気を抜くと浮いてしまう前輪を押さえ込み、登るというよりも、悲鳴を押し殺し、耐え忍ぶ苦痛の数十分。途中で地面に座り込んで休憩しているゆっけさん達が

-5xqteuTホントにこれ、最後まで行くの?



 と聞いてきますが、まったく行きたくはなく、今すぐUターンしたい気分。しかし、行かざる終えません。

 フラつくハンドルにかじりついたまま、さらに耐える事しばし。豪華な建物が見えてきて、ようやくスキー場に到着したようです。

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e3e05b84うひゃあああああ


 目に飛び込んできたのは、まるで世界を覆う壁のようにそそり立つ北アルプスの白さ。巨大な切通のようなスキー場の隙間を、白い巨壁が全て覆っています。

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 あまりの絶景に、ここまでのツラさも吹き飛び「来てよかった!!」と喜びが口からこぼれます。

 スキー場にある施設で飲み物を買ったり、撮影したり、しばらく休憩。スマホで確認すると、ここからパラグライダー場への道のりは、それほどキツくないようでホッと一安心。ここから先も同じ斜度とわかっていたら、泣きながら退散していたかもしれません。

 スタート地点の標高は確か800m程度、スキー場の標高は約1,100m。この時点で都民のもりより高く、長野の別格具合を感じます。パラグライダーは1,260m程度なので、もうひと息です。


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 斜度が緩くなったこともそうですが、それよりも嬉しいのは、迫りくる北アルプスの絶景が常時目に入ってくる事。東京で暮らしていると、非現実的とすら思える景色に心が奪われ、脚のツラさにまで意識が向かなくなり、結果的にツラさが薄れます。渋峠効果と同じようなものかもしれません。

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 絶景ポイントばかりなので、自ずと撮影休憩も多くなり、遅々として進みませんが、楽しい一時。先程までの泣き言は何処へやら、「いやぁ最高だ」、「小熊山最高」、「長野に来てここに来ないなんてありえない」など、皆、口々に絶賛。そうこうしているうちに、木々がなくなり、草原が広がる夢のような場所へとたどり着きました。


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 パラグライダー場を簡単に説明すると、原っぱのように見える崖です。原っぱに出ると、ハイジよろしく意味もなく駆け出したくなるのが人の性ですが、調子こいて走るとそのまま天空にアイキャンフライしてしまうスキーのジャンプ台のような感覚。高所恐怖症の人は、足がすくんで最突端まで行けないかもしれません。

 そんな自然の滑り台の先に広がるのは、麗しの木崎湖。湖がこんなに近く、そのカタチが全部ひと目で見渡せるなんて、とても贅沢な気分。自然と愛車を持ち上げ、湖と一緒に記念撮影したくなることうけあいです。

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 激坂で私を苦しめてくれたドローンも、大空に開放。“湖を見下ろしている自分達を、背中から見下ろす写真”をずっと撮りたいと思っていたので、夢がかなって感無量でした。

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 ただ、驚いたのは木崎湖を撮影した後。ドローンをクルリと反転させ、自分達の場所に戻そうとすると、コントローラーの画面に、何かの冗談のような風景が飛び込んできました。

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 巨大過ぎる北アルプスと、その前にそびえる小熊山。そして、その小熊山のちょっと“禿げた”部分に自分達。頭の中では「こういう位置関係」だとわかっていたはずですが、実際に、映像でそれを見ると、あまりのスケール感、そして「俺、いま、なんつー場所に立ってるんだ」という驚きと感動に絶句します。自転車で訪れる前、クルマで何度か来た事はあるのですが、知っているつもりの場所を、実はまったく知らなかったような気がした瞬間でした。

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 大満足の小熊山ヒルクラを終え、木崎湖へとダウンヒル。今回水泳はしませんでしたが、湖のほとりでまったりと、雲のカタチを眺めながら、風の音を聴く贅沢な時間。長野の夕暮れは、やはり関東のそれと、何かが違います。

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 日が暮れはじめたので、宿のある白馬へと移動を開始します。道中も、もちろん左手に北アルプスが見え続けているのですが、白銀の世界から、夕暮れは紫に、そして夜には青白く、色味が変化していきます。

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 驚いたのはその険しい斜面に、明るい光が幾つか見える事。最初は目の錯覚かと思っていたのですが、他に光がない世界なので見間違いではありません。カメラの望遠をフルに使って確認してみると、山小屋か、テント泊をしている人達の光のよう。

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 (※山の白い斜面にポイント光るのが山小屋の光)

 登山をする人にとっては、当たり前の景色なのかもしれませんが、道路を自転車で走りながら、山の頂上付近にいる人達の光が、肉眼で、クッキリと見える事に驚きました。それだけアルプスが近く、空気がキレイで、他の光源が少ないという事なのでしょう。

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(※この写真の左上の山にも、山小屋の光が写っています)

 ペンションへの道がかなりの激坂だったり、ご飯を食べようとしたファミレスが思いのほか遠かったりと、ハプニングもありましたが、お風呂にも入り、ジャージをコインランドリーに投げ込み、1日目のライドは無事終了。お手軽ルートと言いながら、なんだかんだで2,000mUPしており、ヘトヘトになっていました。

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 眠る前にと、ペンションの前に出てみると、金平糖を振りまいたような星空。三脚を持っていないので、リュックやタオルを代用に、地面にカメラを転がして、即席の星空撮影会がスタート。自分の手も見えないほど真っ暗で、恐ろしいと言えば恐ろしいですが、青い夜空の魅力に取り憑かれたように何枚もシャッターを切り、長野の夜は更けていきました。

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 翌日はまた長野に戻って帰らねばなりませんが、それ以外に必須ポイントは無いまったりモード。白馬の周辺にある桜の名所などを撮影しつつ、嶺方峠方面へと進みます。

 それにしても、どこを向いても田園風景と北アルプスの絶景が目に入ってくるので、名所に行く必要もなくシャッタースポットだらけ。ここに暮らしたら、この景色も、当たり前のように感じてしまうのでしょうか。

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 嶺方峠は、前回の訪問時にダウンヒルしただけなので、逆にヒルクラするとツライのかどうかは未知数。小熊山のような鬼仕様だったらどうしようと心配していましたが、結果的には斜度も低く、道幅も広く、とても快適なヒルクラスポットでした。小熊山はさておき、長野駅→大町街道→木崎湖→嶺方峠→長野駅というルートは、難易度も低く、「とにかく楽に木崎湖で遊びたい」というローディーにはオススメです。

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 嶺方峠で北アルプスに別れを告げ、長野駅へとダウンヒル。距離は40kmほどでしょうか? 美しい山間の村を、延々と下り基調のまま、超長距離のダウンヒル。これがもう快適で、景色もよく、最高の気持ち良さ。美味しいおやきを食べて休憩したり、グッとくる景色で立ち止まって撮影したり。長野を満喫していたら、いつのまにか、長野駅にたどり着いていました。


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 「せっかく長野まで行ったのだから、もっといろんな山に沢山登らなきゃ!」、「乗鞍とか美ヶ原とかもあるし!」という意見もあると思いますが、ロードであえて、まったりのんびり、湖と撮影とグルメだけ頑張る旅というのも、大いにアリだと思います。“自分がもし長野に住んでいて、まったりポタリングするとしたら、どんなルートになるか?” 散歩すると、住み慣れた街の知らなかった一面が見えるように、のんびり旅でこそ味わえるものがあるのかもしれません。

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