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 (読了後再生推奨/画質は720/60p、1080/60pがオススメです)
※フラフラなので揺れが多くてすみません。全画面表示は酔うので注意!! 


 
 乗鞍や渋峠のように標高が高い峠は、天候次第でアタックが困難になります。運が悪いと、何度計画しても天気に恵まれずに挑むことすらできない……なんて事に。そうと思えば初回で絶景を目にできる人もいたり。峠との戦いは、ある種の巡り合わせと言えるかもしれません。


 どちらかと言うと、天候に恵まれているインナーロー教団。しかし、今までどういうわけかアタックしようとすると雨雲に襲われたり、時間が足りなくなったりと、挑めない峠がありました。場所は奥多摩の最深部……を突き抜けて山梨県に入ってしまった場所にある“上日川峠”(かみひかわとうげ)です。



 とはいえこの峠について、私はほとんど知識を持ち合わせておらず、キツイのか、ゆるいのか、絶景があるのかよくわかりません。頂上に“上日川ダム”という人造湖があるらしいという程度。へまさんが「走ってみたい」と前から言っていたのですが、前述のようになかなかたどり着けず。つまり“いつか走ってみたい憧れの峠”ではなく、“ルート引っ張ったけどいろいろあって行けず、結局走った事はない峠”だったわけです。

 ……今にして思えば、ロードバイクの神様が天候を左右して上日川峠から私を遠ざけていてくれたのです。私が死なないようにと。愚かな私はそうとも知らずに……。

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 奥多摩と言えば、都民の森や風張林道などがこのブログではお馴染み。しかし、今回の舞台はそれらのさらに奥。言うなれば超奥多摩です。


 それゆえ、スタートも武蔵五日市駅ではなく、もっと西にある中央線の大月駅。そこから山の中をなんやかんや走って、グルっと周り、最後に上日川峠を倒し、同じ中央線の甲斐大和駅がゴールというコース。


e3e05b84ちなみにルートラボでチラッと見たら、獲得標高3,000mUPだったんだけどそこに正座しなさい。



oq_xBMJD大丈夫。途中に柳沢峠があるだけど、あそこがルートラボだと何故か獲得標高が多目に出るんだよ。だからたぶん全部走っても2,500mUPとか2,700mUPとかそのくらいだと思う。


 私のこれまでの最高獲得標高は箱根で記録した2,700mUP。しかし、2,500mUPあたりから既に記憶はありません。ブログを読み返すと走りきったらしいですが、私が人としての形状と感情を保てなかったので、クリアしたのかと問われると歯切れの良い返答ができません。そんな人間が3,000mUPなんてやろうものなら、上日川ダムに赤い水が広がるのは火を見るより明らかです。

 しかし、へまさんがルートラボのバグで3,000mUPは無いというならその通りなのでしょう。本当に3,000mUPあった場合はデバッカーの虚偽申告として磔の刑に処すほかありません。

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 そんなこんなで、大月駅をスタート。駅を出てすぐの激坂で既にヒーヒー言って「帰りたい」を連呼する私の前を走るのは、と~るさん、へまさんのお馴染みの顔ぶれ。

 当然私は最後尾……ではなく、ぼんさんが後ろにいます。私より走れるので普段は前にいますが、この日は風邪からの病み上がりで体調が今ひとつの様子。山岳ライドを乗り切れるかわかりませんが、私も人の心配をしている場合ではありません。

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 序盤はのどかな田舎道を走り、クルマも少なく、まさに天国状態。“視界にクルマが極力入らない事”にこだわるHAOさんプレゼンツのコースは、景色的にも、雰囲気的にも最高です。

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 ただ、その代償として朝食代わりに、いつも通りわけのわからない謎峠に突入。

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 誰もいないのは気ままに走れて最高ですが、この峠が長い。斜度はそれほどでもありませんが、なんやかんやで900mほど登らされ、敵のランクとしては都民の森と同じようなレベル。グッタリ疲れた末に、いつのまにやら奥多摩の奥地にあるオアシス、「道の駅 こすげ」に到着していました。

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 建物の中でも食事やお土産が買えますが、ここに来ると、施設の右隣にある小屋で売られているカレーを頼むのがマイブーム。来るたびに微妙にメニューが変わっていますが、どれも美味しく、外れ無しなイメージ。

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 腹ごなしをしながら、これから先のコースを確認します。道の駅を出て、すぐに現れるのが今川峠。初挑戦の相手ですが、HAOさんによると「なかなか手ごわい相手」とのこと。この峠を超えると、青梅街道に出られます。



 青梅街道を東に進めば奥多摩湖ですが、今回はさらに西の山梨方面へ。進んだ先に現れるのは、ルートラボバグ疑惑のある柳沢峠。このブログでまだレポしていませんが、実は、この柳沢峠を半分走った事があります。全長10kmを超える大型の峠で、斜度はさほどキツくありませんが、スタミナをジリジリ削ってくる苦手なタイプ。

 ちなみにこの柳沢峠を越えた先は、完全に山梨。頂上まで登ると、富士山がドーンと見え、綺麗なアーチ橋を走る事もできる、ご褒美が魅力的な峠でもあります。その柳沢峠を下り、最後に上日川峠と対決。甲斐大和駅へと戻るというルートです。

e3e05b84へま太郎のバグが本当だとしても2,700mUP。いま900mUPしたけどまだ3分の1。あとこれを2倍のぼらなきゃならないなんて……。


 重くなる胃にカレーを無理矢理詰め込んで、今川峠へと旅立ちます。日暮れがはやいこの季節、あまりゆっくりしていると、峠に挑んでいる間に真っ暗になってしまいかねません。

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 道の駅からすぐに現れたのは今川峠。今まで名前はなんども目にしてきましたが、戦いのははじめて。どういうわけか“小物”、“オマケ”的な印象を持っていましたが、ルートラボで確認してみると距離は4.5km、標高差は338mとなかなか立派な坂スペック。

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 さらに注目は平均斜度が8.7%と高めである事。平均でこの数字という事は、挑んだら、ガーミンのディスプレイには10%が表示され続けるであろう事は、間違いないでしょう。

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 入り口からクライマックスwww


 見事なだまし絵世界。挑む前から精神的なダメージを与えてくるとは、今川峠、侮れない相手です。

 予想通り、足を踏み入れるとクランクがグッと重くなります。斜度は10%を予想していましたが、一気に14%、15%を表示。そこからも、常時10%オーバーで、たまに17%になったりするシーンも。

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 車通りは少なく、高い木に囲まれ、非常に静かな峠。前日の雨でやや濡れた路面が、青く光り、神秘的な雰囲気です。

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 こういう場所は大好物なので、ゆっくり写真を撮りたいところですが、斜度がキツくてそれどころではありません。

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 ぼんさんと「キツくね? ここ」、「ヤバくね?」と話しながら、お決まりの省エネ登坂をダラダラ継続。17%区間ではたまらずにハンドルがフラつき、歯を食いしばって押さえ込むような登坂が続きます。

 大休憩の後だからなんとかなりますが、例えば都民の森や鶴峠などをクリアした後に、そのままここに挑むと悶絶するでしょう。

 道幅は広く、舗装もキレイなので走りやすさは絶品。気分は良いけど、体に悪いというなかなか珍しいタイプ。20%オーバーの超激坂は無いので、10%~17%程度の坂を、淡々と耐えられる能力があれば、脚つきの危険を感じずに走り終えられるでしょう。

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 ただ、ゴール前、最後の最後には10%オーバーのロングストレートが待ち構えています。坂で歯を食いしばり、カーブのたびに一息つくというテンポを繰り返して、体力を削られたところでこの仕打ち。精神攻撃の巧みさもあなどれない峠。気を抜くと、心が折れるトラップが随所に隠されていました。

今川峠:血の味指数19


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 クリアして一息つく暇もなく、青梅街道へとダウンヒル。そこから西へと進みます。


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 次の相手は柳沢峠。場所的に、奥多摩最後の峠と言ってもいいでしょう。柳沢峠の特徴は、前述のように長大である事。起点がどこなのかイマイチわかっていませんが、丹波渓谷あたりからとすると13kmで、最大標高差は752m、平均斜度は6.9%。しかし、今川峠のゴール地点から、柳沢峠のスタート地点までの6km、7km程度の道も平坦ではなく登りがたっぷりあるため、体感的には20kmクラスの峠に連続して挑むのと大差はありません。

 要するに、奥多摩の最深部には、柳沢峠という、都民の森レベルの大物峠がもう一匹隠れている……というわけです。



 獲得標高は既に1,500mUPを過ぎ、疲れが滲んできています。ここにきて、20kmクラスの峠はキツイの一言。先行する3人の姿はとうに見えませんが、前を走るぼんさん@病み上がりのスピードも遅くなってきました。

 キツイライドに挑む仲間ですが、ロードバイクは戦いでもあります。追い抜く時は、さも余裕のある表情で、できるだけハイスピードで突き放すように追い抜くべし。そうする事で、相手に心理的なダメージを与えられます。ツール・ド・フランスでも使われるような、ロードレースの鉄則。ローディーの端くれである私も先人に習って、心を鬼にしてクランクに力を入れます。

e3e05b84力が入らねえwwwwwwww



 そもそも自分の足が、誰かを追い抜くように作られていない事を忘れていました。戦うために足を振り上げようものなら、根本から折れるに違いありません。


 脚力で追い抜けないのなら口先の精神攻撃に絞るほかありません。


e3e05b84性の喜びを知りやがって!



3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400やめてwww



e3e05b84お前ら、許さんぞ!!



3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400やめてwww 力が入らなくなるwww



 登坂中特有の、絞り出すような呼吸が、インターネッツで今話題の人物のモノマネ完成度をUPさせる事を証明しながらぼんさんを追い抜く事で、体幹を奪う事に成功。みるみる後ろのぼんさんが小さくなっていきます。時としてロードレースは非情な世界。モノマネレパートリーを増やしていく事も忘れてはなりません。


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 それにしても長いです柳沢峠。一之瀬高橋トンネルを過ぎたあたりで、先行の3人が休憩していたので私も合流。寒さに震えながらも、ジェルを飲み、一息つくことにしました。

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 このありには川が流れており、その奥には花魁淵(おいらんぶち)と呼ばれる場所があります。その昔、この付近には金山があり、その秘密を守るために、鉱山労働者の相手をしていた遊廓の遊女55人が川に落とされて殺されたという言い伝えが残っており、心霊スポットとしても有名なんだとか。

 霊感は無いと思っていますが、山深くてあまり日が当たらないこのあたりは、そうした言い伝えに説得力を加える雰囲気が漂っています。

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 (ちなみに花魁淵までは土砂崩れで行けません)
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 ちなみに、休憩しているカーブの奥に、1本の道が通っています。

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 これまたブログでレポしていないのですが、以前私はこの奥へと進み、犬切峠というとんでもないバケモノ峠とバトル。命からがらクリアし、再び柳沢峠の中盤に脱出した経験があります。

 この犬切峠、“犬切”という名前も凄いですが、峠の寂しい雰囲気も花魁淵を凌駕する異様なもので、足をもぎとるような斜度とセットで、強烈に記憶に残っています。あえて挑む物好きな人もいないと思いますが、怖い場所が苦手な人は決して1人で行かない方が良いと思います(犬に襲われたという情報もあるようで)。

 そんな昔話を皆でしていると、ぼんさんがヘロヘロになりながら合流。

 やはり病み上がりでこの強度のライドはキツそうです。 

3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400も、もうギブアッ

 

BFQit6Dg_200x200いや、柳沢峠越えた方がはやく帰れるよ



oq_xBMJD極限状態に自らを置くと細胞が活性化されて万病が治るってカーネギーペロン大学教授が言ってた

e3e05b84いいからチョコ食え


 女子ローディーであれば手厚いサポートをするところですが、野郎ローディーには容赦がありません。冗談はさておき、現実問題として“こんな奥多摩の最深部でギブアップしてどうすんだ”というそもそも論が。Uターンして奥多摩駅に戻るにしても、距離は恐らく20km以上、下り基調ではありますがアップダウンも当然多く、かなりキツイハズです。

 であるなら、半分以上はクリアした柳沢峠をこのまま登りきってしまえば、山梨方向へと抜けられます。その先には、私が大弛峠に挑んだ時に降り立った、あの塩山駅が。引くも地獄、行くも地獄ですが、同じ地獄ならば、短い方がいいではないかという判断です。

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 糖分塩分を補給し、小休憩して相談した結果、とりあえず「柳沢峠の頂上まで登ってから考えよう」という話に。

 既に獲得標高は2,000mUPを過ぎています。ぼんさんの心配をする以前に、私も足も、言うことを聞かなくなってきました。力を入れると攣りそうになるので、省エネペダリングをさらに徹底。なでるようにソフトな回転を頭の中に描きながら、引き足ばかり使わず、踏み込む力も解禁して柳沢峠を登っていきます。

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 景色はイマイチ。道幅は広くてキレイですが、車通りもそこそこあります。ロードバイクで登っていて楽しい峠とは言えず、ツラくて、ダラダラ長いだけという印象。精神的な苦痛も、ダメージとして体に蓄積されていきます。

 ほどなくして、ギブアップ宣言したハズのぼんさんが私を追い抜き、グングン先へと進んでいきます。カーネギーペロン大学教授の説はさておき、極限状態に追い込まれた末に、何か、チャクラ的なものが開いたのかもしれません。

 再び性の喜びおじさんのモノマネを炸裂させたくても、追いつく事もできず、悶絶一人旅。ペースを乱さず、ひたすらジリジリと登り続け、ようやく柳沢峠の頂上へとたどり着きました。

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 雲の先に見えるのは、大きな富士山。峠の茶屋の自販機で、おしるこを買って一気飲みしながら、山梨を見下ろしているんだなぁと感慨が深まります。時間も夕暮れに差し掛かっており、コントラストが増した富士山が鮮やかに浮かんでいます。

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 絶景を見ると、なんだか元気が出て来るから不思議です。美しい橋の上で、ワイワイを記念撮影をしていたら、足のツラさも少し忘れられました。ぼんさんも元気が出てきたようです。

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 夕日の富士山を楽しみながら、長い悦楽のダウンヒル。路面がキレイなので、想像以上にスピードが出るので要注意ですが、このダウンヒルは、一度走る価値があります。

 柳沢峠:血の味指数 10

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 この民宿の脇から奥に伸びている道が、今回のラスト、上日川峠の入り口です。

 獲得標高は既に2,200mUP。立っているだけで足がプルプルしますが、ここまで来たら、挑まないわけにはいきません。ぼんさんも、なんだか体調が戻ったよう。ヤケクソなのかもしれませんが。

 ただ、この時の私とぼんさんは、楽観的な気持ちでいました。それは、へまさんの「だいたい2,700mUPで終わるハズ」という言葉を信じていたからです。であるならば、残りは500mUP程度。普通の峠1つクリアすれば、終わりなハズ。既に夕暮れも深まってきましたが、それであるならば、真っ暗になる前にゴールできるかもしれません。

 心配だったのは、へまさんととーるさんのライト装備が、街中仕様で、本格的な山道には非力である点。また、とーるさんはダウンジャケットを持っておらず、11月で日が落ちた山奥ではガクブルになるかもしれません。しかし、2人は登坂スピードが速いため、私とぼんさんよりも速くクリアできれば大丈夫でしょう。

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 しかし、上日川峠に足を踏み入れた瞬間、こうした私の予想は木っ端微塵に打ち砕かれました。

 キツイなんてもんじゃありません。あまりのクランクの重さにガーミンを見ると、17%。その数字が、どんどん増え続け19%なんて表示も。入り口が激坂という峠は今までもありました。この上日川峠もその一種なのかと思いましたが、前方を見ると

 その斜度のままストレートに道が続いてるwww

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 力が入らないフニャフニャの足に、それでも力を込めて、なんとか倒れないようにするのが精一杯。進んでいるというより、あえいでいるに近い登坂状況。確実に徒歩の方が速いです。

 こんなスピードでは、日が暮れる前に峠を抜けるなんて夢物語。気は焦りますが、焦ったところで19%の斜度では速くなんて登れるわけがありません。

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 山深くなると、さすがに19%まで行く事はなくなりましたが、それでも14%、15%がザラという状態。平坦や下りは一切無し。先程の今川峠が裸足で逃げ出すような、強烈な峠。間違いなく、奥多摩ゾーンで最強クラスの敵です。


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 坂スペックは全長約8km、標高差は700mUP。平均斜度は9%。8kmもの長さがあるのに、平均斜度が9%もあるという異常ぶりから、いかにこの峠が鬼仕様なのかがわかります。

 そして最大の問題がこの長さ。ダラダラと長い峠はスタミナを削られ、短く斜度がキツイ激坂は筋力を削られますが、上日川峠の場合は、その両方を一度に削ってきます。つまり、「このキツさは一過性のものだ」と、頑張り続けると、エネルギーが一気に持っていかれて、クリアする前に倒れてしまいます。頑張らず、転倒しない最低限の力で、エネルギーが枯渇しないようにこまめに補給しながら進むほかありません。それゆえ、脚つきにこだわっていられないと、ぼんさんと相談して判断。途中で2回ほど休憩を挟むことにしました。

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 思えば夜の峠をヒルクライムするのはコレが初めて。ブルベに出たことも、山岳ナイトライドもしたことがないので、暗闇での登坂は新鮮です。

 私とぼんさんは、VOLT800クラスのライトを装備しているので、暗闇の恐怖や危険というのはさほど感じません。問題は寒さ。スタート地点が既に900mでしたが、目指す8km先の頂上はなんと1,606m!! 登れば登るほど気温はどんどん下がり、恐らく2度や3度。

 しかし、強烈な斜度を登っているので体内は暑く、汗が吹き出します。体の表面は凍るほど寒いのに、体の内面は燃えるような熱さ。補給ゼリーを食べるために立ち止まると、一気に表面の冷たさが体の内側まで侵食するような感覚。かつて乗鞍で体験したような感覚です。

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 標高の面でも、上日川峠をナメていました。後で調べたところ、都民の森:994m、風張峠:1,146m、鶴峠:868m、今川峠:947m、鋸山(大ダワ):994m、柳沢峠:1,450mなどと比べ、上日川峠の1,606mは頭一つ抜けた高さにあります。

 つまり、今日のラストのボロボロ状態で、今日のライドで最も高いところまで登らなければならない。この心理的なダメージも、2人の足を重くするのに十分でした。

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 ぼんさんと2人、暗闇の中、互いのライトで照らされる範囲だけを呆然と見ながら、ユラユラ、幽霊のように続ける登坂。

 もはや斜度が何%だとか、なんだとか、どうでもよくなってきました。時折現れる「頂上まで4.5km」といった看板の数字が減っていくのを確認するだけで、かろうじて発狂するのを抑えているような状態。


e3e05b84これ道路作った奴は何か変だと思わなかったのか



3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400訴訟起こすならのりますよ



e3e05b84つか誰だ上日川峠に行きたいとか言った奴ぁ!!



3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400今決めました、へまさん年上ですけど殴ります



 あまりの寒さにバッテリが安定せず、デジカメもアクションカメラもおかしくな挙動が多くなってきました。人間も機械も、ギブアップ寸前。しかし、いまさら引き返す事もできません。



e3e05b84なぁ、あの真っ暗な山の上の方に光が見えない?



3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400あ、ありますね……なんだろ



e3e05b84ユラユラしてるからへまさんがライト持って、コッチに手を振ってるんじゃない? あそこが頂上だよ



3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400いや揺れてるのはへるさんです



e3e05b84あそうか、自販機か



3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400こんな街灯一つない猛烈な山奥にポツンと自販機あったら泣きますよ



 後に、工事現場のプレハブ小屋の明かりと判明する謎の光について、不毛な会話を延々と続けるほど脳も消耗。足も売り切れを通り越して閉店状態で、2人ともまっすぐ進む事すらできません。

 うねうねと、ヘビがのたくるような状態で暗闇を進み続けます。8kmだった行程は、4km、2kmと残り少なくなっていますが、こんなにも100m、200mが長く感じた事もありません。

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 何時間かかったのか、もはや時間の感覚もあやふやです。


 ライトで照らさないと、何も見えない頂上にたどり着いた事が、ガーミンの斜度グラフで把握できました。目をこらすと、闇の中に、大きめの山小屋のようなシルエットが……。


 そこに2人で近づいてみると、自転車のライトが照らす先に、凍えきったへまさんが氷像のように立っていました。

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oq_xBMJDさささささささささむむむくてととととるさんはも



e3e05b84大丈夫、震えが止まってから喋って



oq_xBMJDとーるさんも寒すぎて先に下って駅に向かった。俺のライトじゃもう暗すぎるから2人が来るまで待ってたんだけど、寒すぎて泣いてた。そしたら山小屋のおじさんが、カップラーメン売ってくれて、お湯も入れてくれるって。


e3e05b843487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400まじで!? 


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 山頂で食べるカップラーメンは美味しいと登山家の人達は言いますが、その言葉は本当でした。ここが山頂なのか何なのか、真っ暗で何も見えませんが。凍死寸前で食べるアツアツのカップ麺は、どんな三ツ星シェフの料理をも凌駕する、圧倒的な多幸感。

 すするというよりも、熱とエネルギーを口から投入するような勢いで、一気に食べきりました。

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 山小屋のおじさんに感謝感激しつつ、いくらか温まった体が冷え切る前に、駅へと下らなければなりません。

 しかし、この寒さでのダウンヒルはまさに地獄。スピードを出すと寒いので、控えめにゆっくりと。そもそも、この暗さでハイスピードは自殺行為。3人のライトをうまく組み合わせて、広い範囲を、できるだけ先まで照らすようにして下っていきます。

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3487fc7fb8e61847844efa345cfea8fe_400x400キエエエエエエエエエエエエエ!!

oq_xBMJDアアアアアアアアアアアアアアアアー!!

e3e05b84プァアアアアアアアアアアアアーーー!



 あまりの寒さに飛び交う奇声。発生する事で熱を生み出すというよりも、全身に走る震えが声帯を震わせて勝手に声が出るような感覚。ミートテックに包まれた私やぼんさんはまだ余裕がありますが、クライマー体型のへまさんは、ダウンジャケットが無ければ本当に氷像になっていたことでしょう。


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 それにしても長い。後にわかりますが、このダウンヒル、なんと20km近くあります。スピードが出せればそれほどかからないかもしれませんが、ゆっくりと下るには長すぎる地獄。

 先に下ったとーるさんが、途中のどこかで暖をとっていないか、スマホからの連絡と周囲にも注意しながら下っていきます。

 すると、目の前に小さな白い影が。猫かウサギかわかりませんが、何かの生き物が、我々のライトが照らす前方をかなりのスピードで先行しています。突然のライトに驚き、逃げているのだと思いますが、それにしては道の両脇に逃げず、我々の進む道路の先へと走っています。疲れた脳で見ると、まるで森の妖精が、我々の道案内をしているようで、そのまま神隠しにあいそうです。


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 白い動物がいなくなったと思ったら、脇の森でガサゴソと、何かがうごめいています。「タヌキ?」、「クマはやめてよ」などと話していると、道路の先に、5個か6個、黒い塊が出現。ライトの光に驚き、散り散りになって逃げ出します。

 そのうちの数匹が、我々の脇をかすめて逃げていきましたが、その姿は完全にタヌキ。どうやら、道路の真ん中で開催されていた、タヌキの集会に我々が突入したようです。

 夜の峠をクルマで走ったことは何度もありますが、こんなに動物の姿を見たことはありません。私の想像ですが、エンジンの無いロードバイクはほぼ無音で下ってくるため、ライトに照らされてはじめて、動物たちは我々の存在に気付いたのでしょう。慌てふためいて逃げる様子に連続で出くわすのは、そのような理由があるからだと思われます。

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 もはや記憶も途切れ途切れですが、上日川サファリパークダウンヒルを終え、下界になんとか帰還。寒さで発狂する前に、甲斐大和駅へと辿り着く事ができました。とーるさんも無事に下りており、カップラーメンならぬ、駅の近くのコンビニで暖かいものを食べていたそうな。

 輪行準備をして、電車を待つ間、駅前の喫茶店にお邪魔。暖かいコーヒーを飲んで、生還した事をようやく脳が認識しました。


 結論:ルートラボは正しい。バグはへまさんの脳だった。

 獲得標高の記録は3,000mUPとなりました。しかし、人間のカタチと脳を保ったままクリアしたとは言えず、やはりローディーとしてクリアできたのは2,200~2,500mUP程度だと自分的には結論づけています。それ以上の2,700mや3,000mは、登ったとか言う以前に、生存はできた。というだけの数字。まだまだ修行が足りないと痛感した次第。修行なんてした記憶は一切ありませんが。

 一方で、今回の悶死ライドで、まともなライトがあれば、峠で夜になってしまっても、それなりに道路の状況を見ながら走る事はできるというのが実感できました。むろん、安全面では真っ暗の中、山奥を走らないに越した事はなく、無理のないルートが望ましいですが、思いもよらない経緯で走る事になった場合も、しっかりしたライトがあると心強いとわかった次第。

 街中で強力なライトを照らしても、あまり恩恵は少なく、むしろ迷惑なんじゃないかと思いますが、真っ暗闇でのVoLT800は、本当に広範囲を、しかも遠くまで見通せて安心感がまるで違いました。ランドヌールな人達が、強力なライトを何個も装備して走る気持ちがわかって、少しうれしかったのはナイショです。

 上日川峠:血の味指数21