今までも、木崎湖に対する気持ちの悪い思い入れをこのブログで書きなぐってきましたが、今年も実家に帰省する時期となりました。そう、AACRこと「アルプスあづみのセンチュリーライド」の開催です。
ロードを買って初挑戦したファンライドイベントがこのAACR。1回目は120kmをヘロヘロになって走りきり、2回目は仲間と共に160kmを制覇。3回目の参戦となる今回は仲間も増え、のんびりと長野の美しい風景を見ながら美味しいネギ味噌おにぎりに舌鼓を打とうと思っていました。あの忌まわしい山と遭遇するまでは……。
前回のレポートに詳しく書いた通り、AACRは山ばかりの長野を走るイベントですが、どういうわけか盆地を横断するように走行。周囲は魔王レベルの山ばかりだというのに、獲得標高はたいして無いという不思議なイベントです。
それゆえ、坂バカ症状が治癒不能なレベルになった人達は「あんなに雄大なアルプスの山々がすぐ近くにあるというのに、そこに行かずに遠くから眺めて終わりだけなんて耐えられない」と語り、AACRというイベント枠ではなく、普通に長野に出掛け、2,000mUPとか3,000mUPとかしまくるぜという意見もあります。
そもそもAACR自体、車のいない田舎道を快適に走り、綺麗な景色を眺めながら、美味しいものを食べ、参加者といっしょに楽しく長距離を走ろうという趣旨。そこにガンガン魔王レベルの山を突っ込むと、脱落者が続出してグルメライドどころじゃなくなるという危険性もあります。
逆に、だからこそ初心者も安心して挑戦でき、私が初めてのイベントに選んだという理由でもあります。
ただ、その頃と大きく変わったことがあります。それはAACRではなく、私自身。ライドと言えば山をからめずにはいられず、やれ2,000mUPだ、やれ激坂だ、やれ絶景だと、各地の山でバカをやっているの御存知の通り。AACRに参加するために長野に行くハズなのに、仲間内では「その前日はフリーだから、どこに登ろうか?」の話題ばかり。「AACRは回復走だから」などという病的な会話も飛び交います。
長野の山と言えば、真っ先に浮かぶのが“峠の王”こと乗鞍岳。地獄のようなループに悶絶し、頂上で凍死しかけたレポの通り。行けば一生の思い出にはなりますが、さすがに日本一の峠をイベント前日の前菜として食べるのは自殺行為。さらに言えば、AACRの拠点となる松本駅と乗鞍はかなり離れており、ロードで自走するのはなかなか困難というアクセスの問題もあります。
松本から白馬方面に北上すると、かつて川端康成が「トンネルを抜けなくても雪が見えててワロスw」と書いた“嶺方峠”が鎮座していますが、そこまでかなり距離があります。前日に木崎湖に遊びに行って、隣接する小熊山を登るというのもアリですが、木崎湖はAACRコースの通過点でもあり2日連続で重複します。年がら年中“木崎湖木崎湖”言ってる私の病気に皆を突き合わせるのも忍びない。
宿泊ホテルのある松本駅にほど近く、登りがいがあり、さらには絶景も楽しめる。そんな山はないのか。長野様ならあるだろう。街の近くにも凄い山がきっと。
峠の名前は“美ヶ原”(うつくしがはら)。松本の東側にそびえる、日本百名山の一つ。その名の通り、森林限界を越えた世界を持ち、広大に広がる草原は日本とは思えない美しさだと伝承にはあります。さらに、車やバイク乗りを熱狂させるビーナスラインも内包。さらに、松本市外からものの30分とたたずに、スタート地点まで自走で行けるという好立地。
まさにAACRの前日にアタックするために存在しているような山。イカスぜ美ヶ原。
去年登ったけど綺麗だったよー
トミィさんもそう言ってるし、美ヶ原に行こうみんな。
さんせー
ツール・ド・美ヶ原高っていうヒルクラ大会もやってるらしいよ。このコースをそのままパクらせてもらおう。
さんせー
…………大丈夫かな
「松本からすぐに行ける」、「美しいって名前だから美しいところなんだろう」、「ヒルクラ大会も開催されているくらいだらか、道もそんなにムチャクチャじゃないだろう」という3つの理由から、私は美ヶ原について、コースの評判などをあまり調べず、誰かの体験レポなども読んでいませんでした。そんな自分を、後で死ぬほど呪う事になるとは考えもせず……。
と嫌な予感が頭をもたげていると
と、後ろからDeroさんの声。そのまま道は、温泉宿の裏道のような細く、古びた道へと繋がっています。
背後から、あきあきさん、りおんさんの悲鳴が聞こえますが、発狂したいのは私も同じです。お世辞にも舗装状況が良いとは言えない凸凹道。深い森へと吸い込まれる灰色のルートは、15%というGARMINの表示に青ざめる私をあざ笑うかのように、まったく斜度を落とす気がありません。それどころか、進むにつれて数値が徐々に上っていきます。
なっ!?
そもそもツール・ド・美ヶ原が有名なのは、絶景がどうのじゃなくて、この前半の激坂っぷりが頭おかしいって事で有名だからね。
しまったああああああああ、そーだったー!!
かといって、こんな斜度では逆立ちしてもスピードアップなんてできません。ダンシングで踏もうものなら、あっというまに脚が終わってリタイアです。
確かにww ダメ過ぎるwww
そーだね。……仕方ないけどそうするか。
記念碑の場所は約1,890m。先行して、絶景区間を見てきたというトミィさん、とーるさんによると、「あともう少しなんだけど、この先がちょっと下っていて、そこからさらに上りかえさなきゃならず、かなりキツイ」とのこと。
というわけで、私が辿り着くハズだった世界を、とーるさんが撮影してくれた写真でどうぞ。
おおー、まあ綺麗だけど……ガスっててちょっと残念。
クソ
クソ過ぎ
新宿駅始発のあずさに乗り込み、松本駅に到着したのは10時前。ホテルに荷物を置いて、さあ美ヶ原と行きたいところですが、なかなかそうもいきません。翌日のAACRの受付をせねばならないのです。
自転車を組立、自走でスタート地点の梓水苑へ。受付をして、トランポ組を合流。写真を撮ったりなんだかんだやっていたら、松本駅に戻れたのが12時を過ぎていました。想定よりもだいぶ遅く、なおかつ、挑戦には終了時間も指定されています。
というのも、別行動で動いているキルハさん達と合流して、ごはんを食べる約束をしていたのです。宿に戻って支度をして、お店に行く事を考えると、5時くらいには松本市街に戻っていなければなりません。ダウンヒルに必要な時間なども逆算すると、3時か、3時半か、そのあたりには頂上でUターンしていなければなりません。最悪、頂上に調達できなくても強制的にUターンする必要があります。
コンビニで軽くお腹を落ち着かせた後、松本駅からほどちかい、浅間温泉へと向かいます。AACR初回挑戦で宿泊した、あの浅間温泉です。この温泉街こそ、ツール・ド・美ヶ原のスタート地点なのです。
実際のレースにも出場した事のあるDeroさんに、スタート地点の場所などを教えてもらいながら、そのコースをなぞるように登坂を開始します。
ひなびた温泉宿が立ち並ぶ道をスタートした直後から、もう緩やかな登りが始まっています。
いきなりキツイな
と嫌な予感が頭をもたげていると
この先が凄いから
と、後ろからDeroさんの声。そのまま道は、温泉宿の裏道のような細く、古びた道へと繋がっています。
え、マジで、ヒルクラの大会でこんな道がコースになってるの?
とてもロードバイクでスピードを競い合うとは思えないほど細い道。道の狭さに驚いていると、それを上回る衝撃が襲いかかります。足に漬物石でも置かれたように負荷がグワッと増し、間違いなく“激坂”と呼んで差し支えない光景が目に飛び込んできました。明らかに10%では収まらない、15%、17%、いや、18%くらいはありそうな、しかもストレートの鬼坂が目の前に広がっています。
はぁ!?
私の中に、どういうわけか存在する「ヒルクラのコースは長くて辛い事はあっても、爆笑レベルの激坂は存在しなはずだ」という思い込みが、音を立てて崩れ落ちていきます。
なぜそう思い込んでいたのでしょう。ここは魔王の巣・長野県。相手は優しそうな名前ですが、激坂十傑集に名を連ね、標高2,000mを超えるモンスター峠。軽い気持ちで、イベント前日に、“ちょこっと寄り道”気分で挑んでいい相手であるわけがないのです。
背後から、あきあきさん、りおんさんの悲鳴が聞こえますが、発狂したいのは私も同じです。お世辞にも舗装状況が良いとは言えない凸凹道。深い森へと吸い込まれる灰色のルートは、15%というGARMINの表示に青ざめる私をあざ笑うかのように、まったく斜度を落とす気がありません。それどころか、進むにつれて数値が徐々に上っていきます。
ツール・ド・美ヶ原に出るような人達でも、ここは押して登ってる人も多いんだよ。
さっき通り過ぎた、道が狭くなっている激坂のところも、勢い良く飛び出してあそこで失速すると、後ろがつまっちゃうから、真剣な大会の時は「登れねえなら邪魔だどけ!!」みたいな怒声も飛び交ったりしてさw
なっ!?
そもそもツール・ド・美ヶ原が有名なのは、絶景がどうのじゃなくて、この前半の激坂っぷりが頭おかしいって事で有名だからね。
さきにいってええええええええええええええ!!
そもそも激坂というのは、高低差がある目的地まで、無理があるけど道路を作った結果生まれるものです。ですから、ちょっとした裏山とか、お寺の入口とか、道路ができる前から存在していたような目的地に、道路を引っ張ってみたら、激坂になっちゃった。でも短いから許してねてへぺろみたいな存在です。
大きな山を登る、車も通るような道の場合、しっかりとした計画で作られている事が大半で、スケールが大きい山の方が、ムチャクチャな激坂というのは存在しないハズ。存在したとしてもごく一部の、短い区間だけのハズです。
しかし美ヶ原の場合、その激坂区間がクソ長い。明らかに数百メートル、 1km、2kmというレベルではありません。冗談抜きで、数字が13、15%あたりをうろちょろしている道が、スタートからずっと続いています。
既に脱力登坂に切り替え、ダラダラと登っていますが、休憩できる場所がほとんどなく、ガンガン体力と脚力が削られていきます。時速は10kmを切るのがあたりまえ。5km、6kmの徒歩より遅いようなフラフラ登坂です。
翌日AACRだから手を抜いてるんじゃないか、足を温存してるんじゃないかと、勘ぐる人もいるでしょう。当たり前です。そもそも私の登坂スタイルは脱力手抜きが基本。翌日AACRがあろうがなかろうが、踏みまくるような事は一切しません。時間をたっぷり使い、亀のように進む。唯一の武器は諦めないことです。
でも今日はタイムリミットがあるよね
しまったああああああああ、そーだったー!!
かといって、こんな斜度では逆立ちしてもスピードアップなんてできません。ダンシングで踏もうものなら、あっというまに脚が終わってリタイアです。
あまりの激坂具合に、途中に登場する美鈴湖あたりで、りおんさんの背後から「もうUターンして帰る」オーラがスタンドのように立ち上っていますが、「もう少し登ったら景色がよくなるかも」、「斜度が落ちるかも」、「どうせこの道をUターンするんだから行けるところまで行ってみよう」などとポジティブな事を口にして、うやむやに登坂を継続。
ぜんぜん斜度なんか落ちねえwwww
確かに温泉街を過ぎた前半の20%違いアホみたいな激坂ではなくなりました。しかし、10%オーバーが当たり前という状態で、10%を切る事がほとんどありません。序盤でゴッソリ脚を削られた後なので、そんな斜度でも受ける苦痛は増大。結果的に、スタート直後から半分程度まで登ったここまで、受ける精神的激痛が一定で変わらないような錯覚を受けます。
さらに追い打ちをかけるのは、景色のショボさ。完全に森のなかで、眺望が開ける場所がありません。時折木々が無い場所で、下界が見下ろせ、自分が既に1,500m以上の場所にいる事が確認できますが、「こりゃ凄い」と感動するような景色ではありません。
GARMINを見ると、既に2時半を過ぎています。3時過ぎくらいには諦めてUターンしなければなりません。標高は1,600mを過ぎたあたり。とりあえず目標ゴールとしている「思い出の丘」という展望地点の標高は確か約2,000m程度だったハズ。このまま時速5km登坂を続けるとなると、時間的にかなり厳しくなってきました。
序盤の激坂や、中盤にかけての10%オーバー斜度地獄、100歩譲ってその2つは魔王クラスという事で良しとしましょう。しかし、標高1,700mを過ぎたあたりで、私の中に口にせねばいられない感情が渦巻きます。
これさ……ダメじゃね?
確かにww ダメ過ぎるwww
何に較べてダメかと言えば、当然“渋峠”です。2,000mを超える長野の峠ともあれば、当然比較対象は乗鞍や渋峠。渋峠はご存知の通り、標高1,000mの草津温泉からスタートし、少し登ればもう天国と言うべき絶景区間。乗鞍は、もう少し粘らねば大パノラマ区間が現れませんでしたが、それら2つの峠と較べても、美ヶ原のここまでの景色の酷さは受け入れられないものがあります。
斜度的な面で、キツさは渋峠はもとより、恐らく乗鞍よりキツイと思います。にも関わらず、この景色ご褒美の無さ。例えこの先、1,900m、2,000mに到達して凄い景色が広がったとしても、とてもじゃありませんがプラマイゼロにはなりません。
景色ご褒美によるブーストが無いと、当然登坂スピードも上がりません。苦痛にあえぎながら標高1,800mを過ぎたところで既に3時過ぎ。そろそろUターンの決断をくださねばなりません。
せめて、美ヶ原っぽい景色の入り口でも現れないか、その写真を撮ってからUターンを……と思いますが、それすら現れません。本当に頂上の2,000m世界にたどり着かないと、景色ご褒美がまったくない場所、それが美ヶ原なのでしょう。
せめて、美ヶ原っぽい景色の入り口でも現れないか、その写真を撮ってからUターンを……と思いますが、それすら現れません。本当に頂上の2,000m世界にたどり着かないと、景色ご褒美がまったくない場所、それが美ヶ原なのでしょう。
残念だけど、下りの時間も考えると、ここでUターンした方がいい
そーだね。……仕方ないけどそうするか。
記念碑の場所は約1,890m。先行して、絶景区間を見てきたというトミィさん、とーるさんによると、「あともう少しなんだけど、この先がちょっと下っていて、そこからさらに上りかえさなきゃならず、かなりキツイ」とのこと。
さらに当日は曇り気味で、上の景色も、美ヶ原の本気絶景には程遠いレベルとのこと。「まあ、後で撮った写真あげるから、それで良しとしましょう」というとーるさんの言葉に深くうなずきます。さらに時間を使って頂上にこだわると、時間が無くなり、焦ってダウンヒルする事になると危険です。時には勇気を持ってリタイアする事も、大事な事かもしれません。
というわけで、私が辿り着くハズだった世界を、とーるさんが撮影してくれた写真でどうぞ。
おおー、まあ綺麗だけど……ガスっててちょっと残念。
で、どうだったの? 美ヶ原は
クソ
クソ過ぎ
お前ら登ってないじゃんwww
血の味指数:美ヶ原 敗退(暫定推測値25)
蓼科湖スタートでビーナスラインを美ヶ原美術館までのコースなら渋峠に劣らない常時絶景が見られますよ!機会があれば是非