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 夏休みともなると、遠方までロングライドに出かける人も多くなるもの。しかし、雄大な景色の中に辿り着き、風景などを記念撮影しても、帰宅後に見返してみると“イマイチ面白くない写真”ばかりという経験はないでしょうか。

 パッとしない写真を前に、「いや写真ではわかりにくいんだけど、本当に雄大な景色で……」と補足説明を延々とやるのも虚しいもの。ロードに関して、さほど有益な情報を掲載できていない当ブログにおいても、カメラや写真に関してであれば、少しは使えそうなネタを投下できるのではと思い立ち、夏休み特別企画として数回にわけてお届けします。

 第1回目は「降りたまんまアングルからの脱却」。偉そうなタイトルですが、中身は簡単です。

 例えばロードに乗って、どこか見晴らしの良い場所に辿り着き、休憩したとします。「いやぁー着いた着いた」とか言いながら、何かにロードを立てかけ、せっかくだからとスマホかコンデジを取り出し、風景と共に自転車の写真を一枚パチリ……。

 よくあるパターンですが、それゆえよくある写真になります。例えば下の写真、私が良く行く多摩湖自転車道で、多摩湖と、その奥にある西武ドームをバックに撮影したもの。これは自転車を降りて、
(1)その場で立ったままカメラを構え
(2)自転車全体がフレームに入るように広角側にズームを引いて
(3)バックの西武ドームが入るようにしてシャッターを切った写真です。

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 別におかしくはありません。それどころか、おそらく多くの人が、この場で写真を撮ろうとしたら、こんな絵になるハズです。しかし、この写真からは景色の雄大さ、スケール感、自転車のカッコ良さ、ようやくここにたどり着いたぜ感など、“ダイナミックさ”“ドラマ性”が感じられず、有り体に言えばつまらん写真です。

 では自転車からちょっと離れ、焦点距離をよりワイド側にしてみましょう。

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 一気に雄大さが出ました。この写真ならば「へぇーこんな場所なんだ」、「気持ちよさそうだね」と、見せた相手からのリアクションが良くなりそうです。しかし、よく見ると、味気ない手前の道路部分画面下部4割くらいを占領しており、情報量的に無駄なスペースが多すぎます。また自転車が置いてある場所が、画面の真ん中あたりで、写真の“フレーム内の地面から高く”、安定感がありません。

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 焦点距離はそのままで、少しアングルを上に振って撮影したのがこの写真。空の面積が多くなり、雄大さがアップ。自転車も地面に近くなり、絵面の安定度が増しました。

 最初の写真と比べると、かなり印象が違います。

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 自転車から遠くなっているので、どんな自転車なのかという説明写真としては失格です。しかし、“こんな場所だったんだ”と説明する写真としては、このようなポジション、アングル、フレーミング(基本3要素)が適していると言えましょう。

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 今までの写真は、立った状態で主にポジション、フレーミングを変更しましたが、アングルの工夫も有効です。例えば同じ場所で、腰を落として、より地面に近い位置から撮影すると、空の様子がさらに大きくフレームに入ります。「たどり着いたら天気が悪くなってきたww」というような天候説明写真としては適していますが、西武ドームが見辛くなるので、風景説明写真としてはイマイチ。

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 一方で、ローアングル撮影では、自転車をホイールから見上げるような感じでとらえるため、ドッシリと、安定度が増してカッコよく見えるようになります。これはロードバイクでなくても、普通のバイクでも、自動車でも、もっと言えば人間でも同じ。車輪や足を強調する事で、“地に足がしっかりついてる感”がアップするわけです。

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  視点を落としていくほどに、ロードがカッコよく見えてきます。

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 ロード+風景をカッコよく撮影するために、ローアングル撮影は使い勝手の良い撮影方法です。西武ドームのような遠くて、背の低い風景ではマッチしませんでしたが、例えば東京タワーとか、ビル群、山など、背の高い風景とであれば、ローアングルの方がフレームに収めやすくなります。同時に、手前のロードバイクも、ホイールが強調され、カッコ良く見えるというオマケつき。突っ立って撮影するのをやめ、しゃがんで撮影するだけで劇的に変わるのですから、利用しない手はありません。

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 ただ、あまりやりすぎると、ロードバイクばかり目に入って、風景がおそえになってしまう事もあります。どちらを強く見せたいのか、中間が良いのか? 景色はイマイチだったのでロードのカッコ良さでお茶を濁したいのか……。ポジション、アングル、フレーミングの選択は、そのまま“撮影者のメッセージ”と言い換える事ができます。つまらない写真とは、メッセージが感じられない写真と言い換えても良いのかもしれません。


 メッセージは、何も風景の捉え方だけではありません。上手く使えば、時間の流れやドラマも盛り込む事ができます。何も自転車を横から撮影しなければならないという法律は無く、前からも、後ろからも撮影してみると、違ったメッセージを込められる事に気付きます。
 
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 ロードを前から撮影し、背景に道路をふんだんに入れると、“ここまであの道を通ってやって来たんだな感”を出す事ができます。そんなの気のせいだと思うかもしれませんが、試しに道路を消してみると……

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 ロードバイクにばかり目が行って、背後の道路が意識に入らず、“ここまで遠路はるばる来た”感が無くなり、“自転車をそこに立てかけただけ”の写真に見えます。つまり、時間の流れが感じられなくなります。写真として悪いというわけではなく、ロードバイクを目立たせ、説明などする場合の写真としてはこちらの方が優れています。ようするに、道路をフレームの中に沢山入れる事で、“意味”“時間の流れ”が静止画の中であっても生じるので、それをどのように活用するかという話。活用せず、バッサリ捨てるのも1つの活用です。

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 背後から撮影すると、どんなメッセージが持たせられるでしょうか。

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 前から撮影すると“これまで来た道”だったので、背後からは“これから進む道”という写真になります。さあ行くぞ冒険の旅だ! という感じ。出発の前、休憩からの再スタートなどにパチリとやっておくと、アクセントとして良さそうです。

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 ゴールまであともう少し! あの坂を下ったら目指していた◯◯県に入る!! なんて時は、道路の先にフォーカスをあわせ、主役のはずのロードバイクを、大胆に前ボケで配置しても面白いです。道路の先に意識が向いて、あの先に何があるのか、もしかしたら他のロードバイクがこちらに来るのではないか? なんて想像も膨らみます。

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 地面すれすれのローアングルにして、道路を消してしまうと、この先の道がどうなっているのか、これから先にどんな冒険が待ち受けているのかという要素が綺麗サッパリ無くなり、時間の流れから切り離された写真になります。

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 (道路の先が見えている↑)

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 (前輪で道路の先を隠すと、道路が意識に入らなくなる↑)

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 (道路の先が見えている↑)

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 (隠すと写真の主役が交代する↑)

 道路の代わりに、頭上を覆う緑が画面を占め、ホイールが強調されてロードバイクがカッコ良く見え、それらよりも文章を目立たせなければならない雑誌の旅特集ページのように見えてきます。時間の流れから切り離されるので、ブログなどで旅の行程を説明する写真としては使いにくいですが、“こんなに緑豊かで素晴らしい場所だったんだよ”と説明する写真としては優れています。
 
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 縦位置にして地面や土などを配置すると、文字通り泥臭さが付加され、綺麗なだけの写真に、リアルっぽさを出すこともできます。

 また、背伸びして、カメラを目一杯持ち上げて、見ろ降ろすように撮影すると、ロードバイクが頼りなく見え、周囲の自然の強さが強調されます。

 ああどうしよう、道に迷ってしまった……、坂が登れなくて辿り着けそうにない……、
自分のチッポケさを表現するには良いアングルです。
 
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 少し脱線しましたが、とどのつまり、後ろから撮影すると、希望溢れる、ワクワクする、先が気になる写真になります。前を向いて撮影すれば、前向きな写真みたいな。
 
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 面白い事に、これは後ろから撮影した写真だけの話にとどまりません。

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 横から撮影した写真であっても、前に大きな空きスペースを入れると、“これから前に走りだして行きます感”が出て、時間の流れやメッセージが生まれます。

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 日の丸弁当のように、ど真ん中にロードを配置した写真では、後ろから走ってきた感じも、これから前に走って行きそうな感じもせず……時間が止まっているように感じます。

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 ロードを降りて、その場で、立ったまま撮影するのは楽ですが、ちょっと歩いて位置を変え、しゃがんでアングルを変えるだけで写真は急に雄弁になります。

 どんな場所にたどり着いたのか、そこで何に感動してカメラを取り出したのか、何処から来て、これから何処へ行こうとしているのか。無言で写真だけを見せた時、相手にそれを伝える事ができるのか? そんな事を考えながらシャッターを切るのもまた楽しいものです。

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