常日頃感じている事ですが、どうも世の中、パスタの正しい食べ方を知らない人が多いようです。魯山人の書に「小笠原流と双璧をなす」とまで讃えられた、しおい流の正しいパスタの食べ方をご紹介します。

 今回は、AVAユーザーにはお馴染み(?)、新宿のくるくる作られるパスタ店「あるでん亭」のボロネーゼを例に、写真を交えて解説していきます。

DSC02245

 皆さんはこの写真を見て、「ボロネーゼだ」、「ミートソースだ」などと思うかもしれませんが、その時点で大きな間違いです。この状態を、しおい流では"シロメシ”、もしくは"素体”と呼称します(関東地方では素体が多い)。言うなれば、パスタの素の状態、ボロネーゼだのミートソースだのボンゴレだの、そうした料理として完成する前の状態、例えるならば納豆の乗っていない納豆ご飯。マグロも鯛もハマチも、ネタが何も乗っていない握った酢メシを、寿司と呼ぶ人はいません。

DSC02246

 下の写真を御覧ください。

DSC02248

 粉チーズボトルのフタが壊れてドバっとかかった写真ではありません。これがパスタ料理の正しい状態。いわば料理として完成した状態。その中でも最も基本的な状態であり、しおい流では"先付け粉雪”、または"初冠雪”と呼称される初歩的な段階の図。ここからがスタートと言えるでしょう。

 「粉チーズ好きで全体にかけまくってるだけだろ」と思われたそこのアナタ、大きな間違いです。この時、注意していただきたいのは山頂に降り積もる冠雪のように、ある地点に集中的に粉チーズ様(しおい本家では必ず尊称をつける)を重点的に投下している事です。以下の写真はVrinks師範代が実際に粉雪様を投下している瞬間をとらえた貴重な写真です。この時、左手は粉チーズ缶を常にキープしています。テーブルに置いたまま、スープーンだけ持ってかけるのは平和ボケした日本人の悪癖で、パスタ店という戦場では、常に粉チーズをいたずらに浪費しようという猛者達がひしめき合い、鋭い目を光らせている事を忘れてはいけません。

DSC02251

 上の写真でもわかるように、粉チーズ様の投下具合を示す単位は、”面積”ではなく”層”となります。一点に集中させ、最低でも87階層を構成させた状態になってから初めてフォークを挿入。パスタと共にからめとり、口内の水分が完全に奪われるレベルで粉チーズ様をモキュモキュし、下層にあったパスタの味なんてわかりゃしないけどいいじゃないの、粉チーズ超うめえし。だってチーズが粉になってんだよ。もう知るか、何もかもどうでもいいんだ。退職届出すしかねえ (しおい流裏千家第57代目当主・鉄砲光三郎の手記より抜粋 ※大正14年肝硬変で没)

DSC02252

 この写真を見ることができた貴方は幸運です。これは現世代では国内で3人しか使うことができない大技クラフトコロニー落としを捉えたピューリッツァー賞レベルの1枚。一見するとスプーンで粉チーズ様の層を築城していく作業が面倒になってそのまま入れ物から掻きだしてぶっかけているだけに見えますが、この時、師範代の右手速度は光速の42%まで達しており、さらに横目で隣の空席テーブルに置かれているチーズ入れにまだ余裕がある事すら確認しつつ、店員さんに「すいませーん、粉チーズなくなっちゃいまして」と声をかけつつ、しかも向かいにいる私の「ちょww 全部かけんなよww 俺のぶんなくなんだろwww」という非難の周波数を海馬から選択除去する作業も脳内で並列でこなしているのです。

 つまり、全てのミノフスキー粒子を放出してしまうコロニー落としを行ないながらも、ミノフスキーチーズが手元に無い時間を最小限に抑える施策を打つという優雅な流れ技。せっかちではありません、義務感と言えるでしょう。

DSC02253

 最後に、ある歌の歌詞の一部をご紹介しましょう。しおい流作法道場・青年の部で子供たちが最初にならう道場歌の一節です。

 「♪~ハローワーク帰り(中略)口の中が粉チーズでキシキシ(コーラス:キシキシ)言って~♪パスタなんだかカロリーメイトなんだかわからなくなった時が僕らの生の実感~♪ (中略) タニタの体重計に変な数字(中略) ~最後はスプーンでそのまま食っ(中略)~パスタ関係な(後略)~♪ 3本ないと落ち着かない槇原敬之的な僕に天使が舞い降り(後略)~♪」


IMG_4589

 粉チーズを思うさまかけたくなるほど、あるでん亭は西新宿パスタ界のオアシス。その名の通り、アルデンテなタイミングで出される、ほどよく歯ごたえのあるパスタが特徴。アットホームな店内はイタリアの下町のお店に迷い込んだかのよう……。オリーブオイルでこねくりまわした気取ったパスタとはちょっと違う、ホッとする味が魅力です。かけすぎて本当に申し訳ございません。