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 「ヒルクライムにはいろいろな方法論がある。じゃが、突き詰めればそれは、“重い物を高いところまでいかにして持ち上げるのか”という物理学に帰結する」


 ろうそくの光が揺らめく洞窟の奥。かつてへるはうんどと呼ばれた隠居老人は、彼を慕って集まった若者たちの顔を1人1人見渡した後、さらに重々しい声でこう続けた。

 「だからこそ、我々のようなピザローディーは物理法則に反旗を翻さねばならない」

 キツめの斜度による攻撃を、途方もない時間くり出し続けた大弛峠。激烈な一撃を、最初から叩き込んでくる美ヶ原。敵でありながら、挑戦者の精神に快楽を与えて戦闘を放棄させようとする渋峠。そして、それらの特徴をすべて兼ね備えた峠の王・乗鞍。

 へるはんが身振りを交えて語る峠との戦いに、若者たちは目を輝かせて聞き入る。古い冒険の物語に、洞窟の奥は、暗さに似合わぬ熱気に包まれていった。

 だが、舞台地と敵に違いはあるにせよ、その物語の根幹はいつも同じだ。ヒルクライムが重い物を高いところまで持ち上げる行為でならば、それを成功に導くための方法は、“体重を減らし”、“持ち上げるための脚力を鍛える事”以外にはない。それは、何人たりとも逃れられない、物理法則そのものだ。

 しかし、へるはんの口から「減量」、「ダイエット」、「筋トレ」、「ローラー」などの言葉は一度も出ない。「体が重く」、「脚力が無い」ままでも、自分と自転車を高所へと持ち上げる。彼が語るのはまぎれもなく、“物理法則に反旗を翻した”物語なのだ。

 「自転車は進まなければ倒れる。つまり“自転車に乗っている”という事は“前に進んでいる”という事じゃ。そこが乗鞍だろうが、渋峠だろうが、“自転車に乗っていれば”いつかは倒せる。自転車に乗り続けようとする気持ち、自分はこのまま乗り続けられるんだと信じる心……つまり、意思の力で物理法則を覆す事。ここに、インナーロー教団の根幹がある」

 どうという事もない精神論。だが、言葉の言い回し、場の雰囲気で、何かとてつもない真理を教えられたように錯覚した若者たちの瞳が、興奮の色に染まる。その様子を見て、満足気に頷くへるはん。

 だがその時、若者の1人が立ち上がった。

 「老師! では敵が1人ではなく、2人いたらどうなるんですか! 例えばあの“明神・三国峠”のように」

 若者の真摯な疑問が洞窟に響く。

 わずかな沈黙が支配した……。

 ろうそくの炎はゆらめき、答えを求める若者たちの視線は、白いヒゲをたくわえた老師へと収束していく。彼らの気持ちの高まりが頂点に達した時、へるはんは重い口を開いた。



 
「その時は死ぬ」


 
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 明神・三国峠は「みょうじん・さんごくとうげ」と読みます。三国峠は「みくにとうげ」ではなく「さんごくとうげ」です。どこだよという話ですが、場所は富士山の真東。富士五湖の1つである、山中湖の近くにあります。

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 この峠は、ローディーのあいだではセットで語られます。その理由は、地図を見ると一目瞭然。御殿場から山中湖に行こうとすると、その通り道として現れるこの峠は、明神峠→三国峠と1本道で続いているため。つまり、戦う場合は、2人セットで相手をしなければならない……というわけなのです。



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 スタートは新松田駅。HAOさんに連れられて、鮎沢川という川沿いを、まったりと西へ向かいます……。気のせいか、西へ向かうにつれて、2、3%ですが緩やかに登っているようです。

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