
ロードバイクの装備、例えばクッション入りのグローブや、パッド入りレーパン、塩タブレット、カットパンク補修のタイヤブート……いろいろありますが、これらは皆“誰かの失敗を教訓としたグッズ”と言い換える事ができます。
ずっとハンドル握ってたら手のひらが痛い、汗ですべってハンドルが握りにくかった、といった教訓を踏まえ、専用のグローブが開発されたり、それを買ったりする人が増え、いつしかローディーのスタンダードになったのでしょう。
6月末に発売された、ロードバイク関連のコミック新刊2冊を読んで感じるのは、まさに“失敗と教訓”です。

1冊目は、もうこのブログではコミケやコミティアなど、イベントの際に何度も紹介している大塚志郎さんの「びわっこ自転車旅行記」。同人誌で複数リリースされていたシリーズが、一般の書店でも購入できるコミックとしてまとめられたもの。同人誌は買ったことがない、どこで買っていいかわからないという人にも、買いやすくなりました。もちろんAmazonにも売っていて、Kindle版もアリ。同人誌で全部持ってますが、電子書籍で読みたかったのと、オマケの漫画も気になったのでKindle版を購入しました。

内容としては、東京から三姉妹が500kmを走って滋賀の大津の実家までライドするというロングライド漫画。最大の魅力は、ロングライドの経験が少しある次女をリーダーにしながらも、長女と三女はロード初心者である事。つまり“ロングライドにさほど慣れていない人が、こんな長距離ライドをしたらどうなるのか?”という阿鼻叫喚悲喜交交がたっぷり収録されています。
それゆえ、失敗も多数。グローブ無しで挑んだら手の皮がむけて、コンビニの軍手で代用。まだ進めるからと市街地を通りすぎて先を急いだら宿が無い、疲れすぎて食べれない、熱中症、昼間の暑さが体から抜けずに熱にうなされて眠れない、精神的余裕が無くなりチームワークに乱れ、疲れからくる落車等々。失敗の見本市と言っても過言ではありません。

どれも辛いロングライドや、真夏のライドの暑さの洗礼などを受けた事があるローディーには「あるある」、「そりゃ、この装備じゃこうなるよなぁ」と共感したり、苦笑いしたりの連続。きっとロードバイクに興味が無い人が読んだら、「この三姉妹はいったい何故こんな苦行をしているのか?」、「この旅には観光地も名物もグルメもほとんど登場しないじゃないか」と首をかしげる事でしょう。
しかし、ローディーは「自転車で行けんじゃん」と思った瞬間に、アホな脳汁が出て損得勘定ができなくなり、「アホは貫いてこそアホ」という妙な心境でサドルにまたがってしまい、理由は全て後付になります。
一方で、動機と距離と獲得標高がアホなライドであっても、それを無事に完遂するためには、前述のような装備や、それを活かす経験が必要となります。「アハハ」と読みながらも、自分が同じライドをするとなったら、どのような装備で挑むか? どのようなルートを引くか? どこで何を補給し、どこに宿をとるか? ふと、そんな事を頭の片隅で考えてしまうコミックです。

そしてもう一冊は、こちらもこのブログではお馴染み、玉井雪雄さんの「じこまん ~自己漫~」第3巻。なんと残念ながら、この巻で最終巻( ;∀;) さみしー!!
思い通りにいかず、褒められる事もほとんど無くなった大人が、せめて自分の思い通りになる己の肉体と精神を活用し、自分で自分を褒められるような“自己満足”に浸る際の相棒としてロードバイクを選ぼうという趣旨のエッセイ風漫画。有り体に言えば理論武装した散財日記のようなもので、読んでいると身悶えるほどに図星を突かれ続けます。

最新の3巻で興味深いのは、ロードバイクを活用しながらも、食生活にもフォーカスした玉井さん独自のダイエット方法。また、最新のカーボンバイクを持った上で、クロモリでホリゾンタルなフレームを所有していると、いったいどのような気分になるのか? 生活のどんな瞬間に「このバイクを持ってて(飾ってて)良かった」と思えるのか? など、興味深く、かつ、危険な体験談に満ちています。
そして後半は、米国で開催された「デスライド2014」。その名の通り、200kmで獲得標高4,500mを走破するという、参加者を間違いなく殺しに来ているライド。こんなん、クリアできる人間の方がどうかしていると思いますが、果たして玉井さんはクリアできるのか!? 読み応えがあります。

同人誌の「ロングライダース」や、コミックの「ろんぐらいだぁす!」にも言える事ですが、こうしたライド&散財レポートには、単純にエクストリームな体験談を面白く読むという娯楽要素に加え、他人の失敗談を転ばぬ先の杖にするという効能もあります。
「ロードに乗ると手が痛くなるんだ」と痛感してから、「いらねえだろ」と思っていたグローブを慌てて買いに走るのも良いですが、どちらかと言えば「痛くなると聞いて前もって買っておいたから痛みも出ずに走り切れた」という方がクレバーです。
重要性を自分の身で痛感し、納得してから購入するというのも姿勢としては筋が通っていますが、頭がカチ割れてから「うむ! やはりヘルメットは重要であったか!」と腕組みしても格好はつきませんし、熱中症で救急車で運ばれてから塩飴買いに行くってのも洒落になりません。
要するに、“楽しめて、ためになり”なおかつ“自分や他人の安全にも寄与できるコンテンツ”ってのは素敵だぁという話です。