東京は元麻布、仙台坂をあがった辺りのイタリアンレストラン・AVANTIをご存知でしょうか。といっても、今回の話題はレストランではなく、そこのウエーティングバーなんですが……。
土曜日の夕方に常連客が織り成す“東京一の日常会話”を、何故かラジオを通して盗み聴きできてしまう東京FMの番組、「Suntory Saturday Waiting Bar "AVANTI"」。1992年の放送開始から、実に21年にもなる長寿番組。ネット局も多かったので、一度くらいはこの店の日常会話に聞き耳をたてた事がある人も多いかもしれません(一部ですが、Webでも聴くことができます)。
年齢がバレますが、私はこの番組の放送開始初期からのファン(オーディオの師匠の影響もあり)。三宅裕司のヤングパラダイスあたりの方が古いですが、山下達郎サンデー・ソングブックや、ニッポン放送時代伊集院光などよりやや付き合いが古い番組です。
簡単に説明すると、シナトラやディーン・マーティンをよく流す雰囲気の良いバーに、常連客の大学教授に案内されてリスナーが足を踏み入れると、特定の分野に含蓄のある常連客が集まっており、そこかしこから気になる話が漏れ聞こえて来る。「最近の料理のトレンド」、「良いバーやバーテンダーの条件」、「家電について」、「サッカーについて」など、毎週話題は様々。盗み聴きが趣味の教授に、「ほらあの席にいるのは、有名なあの方ですよ、ちょっと聞き耳をたててみましょう」とそそのかされるまま、興味深いトークが楽しめるという流れ。合間に流れるジャズが、耳をリセットする役目も担っています。
著名人のトークも魅力ですが、初代バーテンダーのジェイク(サックスプレーヤーでもある)と、教授のまったりとした世間話も楽しく、ジェイクが店を離れ、バーテンダーが現在のスタンになってからも同じような雰囲気を維持。常連客の美女で、声がなんだかセーラーマーズとかサクラ大戦の神崎すみれに良く似ているマドンナ・南さんや、ゆるいAVANTIのムードを破壊する風雲児で、同じトーンでおバカなラジオ番組で笑わせてくれるる宮川賢に声がクリソツな取手豪州など、個性的なキャラも多数登場。彼らの織りなすドラマも魅力の1つでした。

(カクテル本も出ています。ジェイクー、モスコミュールてんこ盛りねー)

(カクテル本も出ています。ジェイクー、モスコミュールてんこ盛りねー)
過去形なのは、この番組が3月30日土曜日で最終回を迎えたため。まあ、最終回と言っても、スタンがアメリカに帰る事になり、新バーテンダーにアンジェロが就任する事になっただけで、お店自体が無くなるわけではないのですが……。「本当にあの店はあるのか?」と気にする人がいるようですが、あんまそういう事を気にする人には向かない番組なんじゃないかという気もします。

(前行った時に灰皿パクってきました)
というわけで、こんなに長く聞いてきた番組に不義理はできないと、ACEで朝から幕張で仕事しておりましたが、なんとか夕方に抜け出し、六本木の東京ミッドタウンで行なわれた最終回イベント&パブリックリスニングに滑り込みで参加してきました。
正直言って「どのくらいの人が聞いている番組なのか」という実感がまったく湧いていなかったのですが、会場を埋め尽くす人の多さに驚愕。麻布十番祭りに出店とかの時もまあ人気はありましたけど、こんなにファンがいたのかと驚きました。

本物のスタンにも会えて感動。まだ仕事せねばならないのでアルコールはほどほどに、特製のおつまみも頂きました。



時間になると、もちろん教授も来店。20年ラジオを通して聴いてきた冒頭のくだりを聴くのが最後になると思うと寂しいですが、まさか生で聴けるとは思っていなかったので鳥肌が。仕事でもなんでもないのに、むろん1080/60pで撮影。“大事なものフォルダ”にしまっておこうと思います。ちなみに教授によると、仙台坂をあがるのが辛くなってきたから番組が終わるそうですw

教授が歌い始めると、隣にいた二十歳そこそこの青年が「教授が歌ってる!!」と驚きの声を挙げ、「ちょww おまww 団しん也を知らずに聴いていたのか」と思わず言いそうになりましたが、でもなんか、知らずに聴いていた方が粋な気もして黙っておきました。
最近はFMも、AMの深夜ラジオのようなノリの番組が増加。リスナーの耳に入るけれども、意識の大部分を奪うわけでもない、寄り添うようなリスナーとの関係性を持つ番組は減りつつあります。ただ単に面白いとか、面白くないとかではなく、その曜日のその時間を、その番組の雰囲気で満たしたいからチューニングを合わせる……という番組は稀有です。放送メディアは今後、録音・録画したら、面白さが半減するような番組を作らないと、そう遠くない未来に、ごそっとネットとVODに持っていかれるかもしれません。
お疲れ様でした。

